「子宮内フローラが妊娠に影響を与えている」そんな話を聞いて、子宮内フローラについて取材してきました。教えてくださるのは、医療機関向けに子宮内フローラの検査を提供しているVarinos(バリノス)株式会社の代表取締役である桜庭 喜行さん、取締役の長井 陽子さんです。
子宮内フローラのバランスが良いと、妊娠率や生児獲得率が高い可能性
ーー子宮内フローラについて教えてください。
桜庭さん(以下、桜庭):子宮内フローラとは、子宮内の細菌の集団のことを指します。
長い間、子宮の中には細菌がいないと考えられてきたのですが、2015年に米ラトガース大学の研究者が子宮内に善玉菌が存在することを発見。
翌年には米スタンフォード大学のサイモン博士らが、子宮内フローラの環境が乱れていると体外受精の成功率が下がることを発見しました。
ーー子宮内フローラがどういった状態だと、妊娠につながりやすいのでしょうか?
桜庭:子宮内にはさまざまな菌がいて、ラクトバチルス菌が90%以上の場合、90%未満の人と比べたら、妊娠率が2倍以上という結果が出ています。
また、生児獲得率という妊娠後に出産に至った確率も、ラクトバチルス菌が90%以上存在している人のほうが高いです。
細菌性腟症の場合は早産のリスクが高いですが、細菌性腟症の場合はラクトバチルス菌の割合が下がることとも一致します。
子宮内フローラの状態は、喫煙習慣や腸内細菌などさまざまな要因が関連している
ーー子宮内のラクトバチルス菌の割合には個人差があるそうですが、どのような原因が考えられますか?
長井さん(以下、長井):食生活やストレス、喫煙習慣や腸内細菌や性交渉の頻度、ホルモン剤の使用などの影響は大きいと考えられています。そして、子宮内フローラは女性ホルモンの影響を大きく受けるので、加齢による変化もあります。
また、生理とも関連があるといわれています。その理由は、生理期間中は経血と生理用品によってどうしても雑菌が増えやすいからです。生理中はラクトバチルスの割合は減り、生理が終わると徐々に割合が高まります。月経のこない妊娠時は、ラクトバチルスの割合は増え、子宮内フローラの状態がよくなります。
桜庭:さらに、子宮内フローラの状態は、腸内フローラとも関連性があると考えています。
腟や子宮にいる菌がどこからやってくるのかは明らかになっていませんが、腸管由来の可能性が高いと考えられています。腸内にいる菌と、腟内の菌のDNA配列を比べてみるとほぼ一致するデータも出ています。
子宮内フローラの検査キットを利用すれば、子宮内フローラの状態がわかる
ーー子宮内フローラの状態は、調べられますか?
桜庭:調べることは可能です。当社では医療機関向けの子宮内フローラの検査を提供していましたが、3月から個人向けの検査キット「子宮内フローラCHECK KIT」の提供を始めています。(価格:税込26,000円)
検査によって、ラクトバチルスの割合、そのほかに細菌性疾患の可能性がないかがわかります。使用方法としては、検査キットを腟内にいれて、検体を採取。検体を送ったら2~3週間後に結果が届きます。
長井:実は、約3割の女性が、かくれ細菌性腟症だと考えられています。細菌性腟症になるとおりものが増加したり、魚が腐ったようなニオイがしたりしますが、自覚のない人も多いです。こうした細菌性腟症の可能性についても検査によってわかります。
ーー子宮内フローラの状態が良くなかった場合は、どのような対処をするのでしょうか?
桜庭:検査によってどんな菌がいるのかがわかります。炎症を起こす細菌を認め子宮内膜炎と診断された場合は、婦人科などで抗菌剤を投与する方法があります。
それに加え、「ラクトフェリン」という物質が、ラクトバチルス菌を増やすのに効果があることが研究でわかりました。
当社では、「子宮内フローラのためのラクトフェリン」というサプリメントを販売しています。当社のサプリメントは、「子宮内の環境を改善するためのラクトフェリン」という用途での特許を2021年2月に取得しています。
経口摂取することで腸の状態が良くなれば、子宮内の環境も良くなり、腸が免疫をつかさどっているので、全身に良い影響が期待できます。
ーー個人向けの子宮内フローラ検査キットを提供された理由を教えてください。
桜庭:「もしかしたら不妊かな」と思っても不妊治療専門クリニックに行くまではハードルが高い。不妊治療に踏み出すまで、モヤモヤを抱えていて、いつの間にか1~2年経ってしまうこともあるでしょう。
現在、日本の体外受精をする女性は30代後半~40代が多く、世界と比べても平均年齢が高い状況。たとえば、アメリカなどでは不妊治療患者の平均年齢は34~35歳くらいです。30代半ばから40歳までの5年は、妊娠を望む人にとっては非常に重要な差があるため、この5年を前倒しできたらと思っています。
「子宮内フローラCHECK KIT」は、医療機関に行かなくても、自宅で気軽に検査することが可能です。検査結果で子宮内フローラの状態が悪いことが分かれば、改善をすべく対策がたてられますし、状態が良いけれども妊娠しない場合は、他の原因が考えられるので、不妊治療専門クリニックに行っていただくことを推奨しています。
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不妊治療において活用が期待される子宮内フローラ検査は、妊活時の検査だけでなく、細菌性腟症をはじめ、女性のQOLに影響を与える症状の検査にも繋がるとのこと。
子宮内フローラ検査には、胎児の染色体異常を発見するNIPT(出生前診断)や、がんパネル検査などにも使われている「次世代シーケンサー(NGS)」が使われています。Varinos社がどのような経緯で、子宮内フローラ検査を実用化したのかについては、以下の記事もご覧ください。
子宮内フローラ検査を実用化したVarinosの設立経緯や想いは「不妊治療現場から注目の子宮内フローラ検査を手がけるVarinos」から
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監修者プロフィール
淀川キリスト教病院 産婦人科専門医
柴田綾子
2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修。世界遺産15カ国ほど旅行した経験から女性や母親を支援する職業になりたいと産婦人科医を専攻する。 総合医療雑誌J-COSMO編集委員を務め、主な著者に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社,2017)。産婦人科ポケットガイド(金芳堂、2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社、2021)。明日からできる! ウィメンズヘルスケア マスト&ミニマム(診断と治療社、2022)。