誰かに甘えたくなるときってどんなとき?

そう聞くとすぐに「いつも甘えたい。だいたい疲れているから(笑)」と答えた。

エッセイストやライター、プランナーとして活躍している夏生さえりさんは、生理痛やPMSと長年付き合ってきた。高校生の頃から治療のためにピルを服用。それでもしんどい日が続くほど重たい症状に悩まされ、婦人科に通う日々だったと話す。

生理によるつらさは人それぞれだからこそ悩みも深い。そんなさえりさんに、憂鬱な生理の日々をどう過ごしているのか話を聞いた。

Photo by Natsuki Hamamura/ Landry Box

仕事を休むと余計つらかった

—さえりさんは、重たい生理痛やPMSに長年悩んできたのですね。

私は女性ホルモンにめちゃくちゃ振り回されて生きてきましたね。生理前になると「もうだめだ」「世の中は悲しいことだらけ」とむやみやたらに思ってしまって、生きているのがつらくなっちゃうんです。

10代の頃から、立っていられないほどお腹が痛くなったり、貧血でフラフラしたり倒れたりすることもしょっちゅう。無理してバイトに出勤し休み休み働いていたら、「邪魔だから」と帰らされたこともありました。月経困難症や子宮内膜症、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの疾患があった時期もあり、婦人科にはよく通っていました。

出版社に勤めていたときは、大事な日に休まないといけなくなったりすると「なんで私はできないんだろう」って自分を責めてしまい、本当に悩みました。会社を休むにしても、ほかの人に迷惑がかかってしまうので、より精神的なダメージがあるんですよね。

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—お仕事で大活躍しているさえりさんでも、そんな悩みを抱えていたんですね。

新卒で入った会社だったので、何も力になれない上に休まなければならず、余計に苦しい時期でした。毎月生理に怯えながら仕事をしていましたが、出版社を退職してWeb制作会社で編集のお仕事をはじめたのを機にだいぶラクになりました。出版社よりも長時間労働にはなりましたが、転職後のほうが自分のペースで仕事を調整できるようになったから、誰かに迷惑がかかるプレッシャーがなくなりました。

今日はつらいから休もう。元気なときに2倍がんばればいい。そう思える働き方になったのは、心にとっても体にとっても大きかったようで、そのくらいから体調もだいぶ良くなりました。

パートナーには、ぜんぶ話す

—プライベートでは生理がつらいとき、どうしていますか?

周囲に声を大にして「今日、生理なんだよね」と言えるほどオープンではありませんが、夫には、生理のつらさはぜんぶ話してます。

生理が重たいから元気がない。生理で疲れやすいから家にいたい。生理前で気持ちが落ち込んじゃう、悲しいことばかり考えてしまう、とかぜんぶ。彼に出会ってから、不思議と生理のつらさが減ったんです。夫はホルモンバランスが崩れているわたしへの接し方が、上手な気がしますね。

—夫さんは、どんなふうに接してくれるんですか?

ケアしてくれるけど、しすぎない。過剰に心配したり、逆に軽視したりもしない。気遣いがちょうどいい感じなんですよね。そのおかげで私も生理でイライラしているからって彼にあたっていいわけではないし、生理に甘えすぎてもいけないと、彼を思いやれている気がします。生理は辛いですが、生理を理由にすればなんでも許されるわけではないと、他人と暮らすうえでの気遣いを忘れずにいられるというか。

ただ状況をわかってもらうためにも、できるだけ具体的に話すようにしています。「私は生理のときこういうふうになる。だからつらい」と。やみくもに「つらい」「イライラする」「悲しい」だけ伝えられると、パートナーもどうしたらいいのかわからず投げやりになってしまうこともあると思うので、できるだけ元気な時期に説明するようにしています。

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パートナーには女性ってこうなの、と伝えるんじゃなくて「私」を主語にして伝えるのがいいと思います。

同じ生理でも、人によって症状は違う。私は以前、お付き合いしている男性と喧嘩をしたとき、「友達の彼女は、生理前になるとイライラするんだって。あなたが今怒っているのも生理前だからでしょ?」と言われてものすごく悲しい気持ちになったことがあります。彼からすれば優しさのつもりだったのかもしれませんが、当時は生理前には「落ち込む」だけで「イライラ」なんてしなかった。ただ単に彼に怒っていただけなんですよ(笑)。それを、生理のせいにされて、聞く耳をもってもらえなかった。

人それぞれ症状が違うということを、どうやったらわかってもらえるのか。考えたときに、当たり前ですが、日頃から「私」を主語にしてきちんと説明するしかないなと思ったんです。

女性たちがパートナーに自分のこととして伝えていけば、生理のない男性からの理解、ひいては職場での理解も深まるんじゃないかな。

—パートナーに生理のことをどう伝えたらいいのかわからないって声もありますね。

素直に伝えてみるのが一番なのかなぁと。私は生理中に限らず「いま私はとても甘えたい気分だ」「なんだか悲しいから話を聞いてくれ」というふうに、気持ちの説明をよくします。理由はわからないけど、落ち込んでいる。原因は思い当たらないけど、元気がない。だからちょっとのあいだ隣にいてほしい。そんなふうに、モヤモヤをそのままぜんぶ伝えています。

たまに、ちょっと愚痴を聞いてもらいたいときってあるじゃないですか。「アドバイスしてほしいわけじゃなくて、ただ話を聞いてほしいんだけど」と前置きしてから話し始めると、コミュニケーションのすれ違いが起きにくくなるのでおすすめです。そうすれば毎回じゃないけど、うまくいくことが多いです。

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難易度の低い目標をつくる

—生理で体調が悪いときって仕事してても、休んで家にいても、うまくいかなくて落ち込みませんか?

生理のときはだいたいそうです。仕事も捗らないし、家にいても「あー忙しいのに仕事休んじゃった…」って落ち込みますよね。だから私はできるだけ簡単で、かならず終わる目標を立てます。

たとえば「洗い物をする」とか「出さなきゃいけない郵便物を出す」とか。それが終わったら「できた!えらい!」と自分を褒めます。ひとつずつ終わらせて、前に進めていると感じられることが大事。「部屋の片付けをする」とか、終わりがないことよりも達成感が得られます。

紅茶を淹れた、えらい、とか。会社に行ったら、もうそれだけでがんばった。誰にも悪態つかなかった。えらい。そんなふうに、小さな達成感が得られるようなことを意識的にするようにしています。

大きな決断をしない

それから、PMSのときや生理中は、重要な決断をしないようにしています。「やりすごす」のが前より上手くなったんですよね。

私は女性のフォロワーさんたちからDMやLINE@でメッセージをいただくことがあるのですが、「なにをやってもうまくいかなくてつらい」とか「仕事やめたい」とか「彼氏と別れようかな」みたいな相談が寄せられることも。そんなふうに思うとき、「お腹が空いてるんじゃないか」「気持ちが疲れているんじゃないか」「睡眠が足りてないんじゃないか」という基本的なことや、「もしかして生理前じゃないか?」ということを、心の中でチェックリストのように確認してほしいんです。

すべての相談に答えられてはいないんですけど、やりとりしていくなかで「今生理前だからかもしれないんですけど」という一言が聞けたことがあって、「とりあえず生理終わってからもう一度考えてみようか」と伝えると数日後、「生理終わったらどうでもよくなりました」と連絡もらえたことがありました。私もPMSがあるので、ホルモンが乱れて気持ちが不安定になっているときに、大きな決断は絶対にしないと決めています。深く考えることはやめて、決断を先送りにするのがおすすめです。

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「ぜんぶ〇〇のせい」と思う

—女性がいかにホルモンに振り回されてるかということがよくわかります。

なにをやってもなぜかうまくいかないとき、私は「生理(ホルモン)のせい」か、「天気(低気圧)」のせいにします。そうすれば誰も悪くないし、しょうがないって思える。

一度、占い師の鏡リュウジさんに取材する機会があったのですが、鏡さんが「星回りのせい」っていっていたんです。星占い的にいまはこういう時期だから〜と考えると、楽になれると。それってすごい発見だなと思いました。「星回りのせい」を手に入れたらもう最強です(笑)

それ以来、生理のせいでもなく天気のせいでもないときは星回りのせいにすることにしました。だいたい網羅的に「〇〇のせい」が成立するんですよ。あらゆる「〇〇のせい」を駆使するだけで、辛くなりすぎずに済むんだったら、苦しい時はぜひ利用してほしいです。元気になったらまたがんばればいいんだから、上手くいかないときはやり過ごしてほしい。

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引きこもりだった学生時代を決して忘れない

—だから、さえりさんはいつも前向きなメッセージを発信されているんですね。

私は学生時代に「引きこもり」だったんですよね。きっかけは、頑張りすぎてしまったこと。休むべきときに「頑張らないと」と思いすぎて、PMSがもっとひどいPMDDへと変わって……生理前になると暴力的になったり「死にたい」と思うようにもなって、コントロールが全くできなくなりました。でも頭ではずっと「頑張らなきゃ」「わたしはダメだ」と思っていた。

当時、インターネットではSNSがどんどん広まっている時期でした。そして、声が大きくて主張の強い人が目立っていました。見ていてしんどかったのを覚えています。

—いまはさえりさん自身が“インフルエンサー”になっていることについてどう感じますか?

私はいま、本やネットのコンテンツを通じて、言葉で伝えるお仕事をしています。どんなメッセージを伝えるときでも、あのときに感じた気持ちを忘れないでおこうと思っています。あのとき聞きたかったのはどんな言葉だったか。あのときどんな言葉に救われたか。それを考えるようにしています。

届いてほしい人にきちんと届くよう祈りながら、選ぶ「言葉」を大切にしています。すこしでも自分のダメな部分も受け入れて、自分を好きになれる人が増えてほしい。かつての私のような人や、いつか元気がなくなるかもしれない私のために(笑)、元気な間は言葉を紡いでいきたいと思っています。

Photo by Natsuki Hamamura/ Landry Box

取材協力:MERCER BRUNCH TERRACE HOUSE TOKYO

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