京都大学医学部 婦人科学産科学教室、女性健康医学研究室は、現在PMS症状の記録アプリ「せるふも」を研究・開発している。
同研究室は、PMS症状に悩む女性たち約400名を対象に、開発中のアプリを使って行うRCT(ランダム化比較試験)を行う計画だ。メールでのアドバイスならびに自己症状を記録することで、PMSによる生活トラブルをどの程度改善するかを検証するとのこと。
PMSとは
PMSは「月経前症候群(Premenstrual syndrome)」を略したもの。月経前の数日間にあらわれる、身体面あるいは精神面に不快な症状が繰り返される状態のこと。
身体面では、頭痛、腰痛、下腹部痛、眠気、冷え、むくみ、胸の張り、肌荒れ(ニキビ)など。精神面では不安感、イライラ、落ち込み、無気力、感情の起伏などの症状がある。
症状の種類や重さには個人差があり、「人にわかってもらいにくい」ため、悩んでいる女性は少なくない。
参考:生理前の不調はなぜ起こる?「PMS」の基礎知識(医師監修)
PMSを「見える化」してセルフケアを促進
京都大学の同研究室では、女性のメンタルヘルスに大きな影響を与えるPMSの「見える化」を目指し、セルフケアを促進するために、PMS症状記録アプリの開発などに取り組んでいる。
今回は「症状をモニタリングすることや、生活の中の心がけでPMSの症状を乗り切りやすくなるのではないか」、その仮説を確かめるためのRCTとしている。
こころと身体を乗りこなせるように、サポートしたい
京都大学医学部附属病院産科婦人科 産婦人科医の池田裕美枝さんは、同プロジェクトを進めることになったきっかけを次のように話します。
「京大の女性ヘルスケア外来には、とても重症のPMS関連疾患を抱えた方がいらっしゃいます。多くが、長年適切なケアに巡れあえず、自分を責めてこられた方です。重症である方ほど、お薬が合わなかったり、お薬だけではケアが足りなかったりします。それでも私たちは、ご自身がご自身のこころと身体を乗りこなせるように、できる限りのサポートをしています」
「症状の記録」を勧めることも、これまで取り組んできたPMS患者のサポートのひとつだと池田さんは言います。
「もちろん合わない方もいらっしゃいます。記録ができる患者さんには記録してもらい、その記録をもとに患者さんと医師が、日常生活でできるさまざまな工夫を一緒に考えることによって、少しずつ症状も生活も改善できた患者さんが、これまで何人もいらっしゃいました」
「そこで考えました。まだ軽症の方や医療にたどり着けない方々に、症状記録を試みていただき日常を見直すきっかけができれば、重症化する人をひとりでも減らせるのではないか?それが、このアプリ研究を開始したきっかけです」
一人ひとりが、自分の価値観に沿った生き方を選択できるように
現在は、研究参加者にしか使うことができない「せるふも」アプリだが、研究結果により、このアプリによる効果が立証できればいずれ一般公開できる日もくるのではないかと、池田さん。
「共同研究してくださる仲間を募り、もう少し使いやすく改良したアプリをいずれは市販化できればと考えています。研究スタッフも研究資金も少ないので、まだまだ絵に描いた餅ではありますが、一人ひとりの女性が自分の価値感に沿った生き方を選択できるよう、一歩ずつ前に進めていきたいと思います」
なお、この研究において、PMS当事者の協力を求めたところ、募集から2週間ほどで400名の参加希望者が集まったという。当初は数カ月かかるとの見通しだったが、予想を超えるスピードに驚いたそうだ。
周囲に理解してもらいにくい症状だからこそ、PMSへの悩みは深い。
この研究プロジェクトに対する女性たちの期待の高さがうかがえる。