ドイツのスタートアップ企業で男性3人が制作した、生理用品取替用手袋「ピンキー」が世界各国で「マンスプレイニング」だとして議論を呼んでいる。
同社が運営するインスタグラムには現在、謝罪文がドイツ語で掲載されている。
ドイツのスタートアップ企業で男性3人が開発
ドイツで3人の男性によって制作された「ピンキー」は、タンポンまたはナプキンを取り外すときに着用することを想定された「衛生的で目立たず、外出先での使用に最適」なピンクの使い捨て手袋。
生理用品を包んで裏返し、巻き上げて粘着テープで密封することで漏れることなく臭いを防げるといい、価格は48パックで11.96ユーロ(14.31ドル)だ。
開発者のオイゲン・ライムクロー氏とアンドレ・リッタスルデン氏は、4月13日(火)に発明家が投資家のグループからお金を探すドイツのテレビ番組「ライオンズデン(Die Höhle der Löwen)」で「ピンキー」のアイデアを発表し、有名投資家のラルフ・デュメル氏が3万ユーロの投資を決めたという。
生理のタブー化を懸念した批判の声が奮発
しかし番組内で「ピンキーグローブ」のことを「衛生的で目立たず、外出先での使用に最適」だと宣伝したことが、経血を不衛生なものとして捉え、生理に対するスティグマ(汚名の烙印)の再生産を助長しかねないという批判にさらされた。SNS上で女性たちは、この製品は生理に対するマンスプレイニングであると非難し「生理が汚い、恥ずべきものであり、隠されなければならない」と生理のタブー化を助長するものだとして批判している。
これに対して開発者の2人は、生理のトピックへ十分な注意を払っていなかったことに対して、謝罪の声明をInstagramに掲載。
「私たちはこの問題に十分かつ適切に対処していません。それは大きな間違いでした」
彼らは「タブーを取り除くことに絶対に賛成」とした上で「私たちはまだ学ぶことがたくさんあり、いくつかの盲点があることを認識しており、フィードバックを非常に真剣に受け止める」としながら、「私たち(そして私たちの家族)は大規模なヘイトスピーチにさらされています」と自分たちへのヘイトスピーチをやめるようにも呼びかけている。
同国のフェムテック企業「Clue」も強烈に批判
同じくドイツ発のスタートアップ企業の排卵期予測アプリ「Clue」は、「ピンキー」グローブに対しTwitterで以下のように述べている。
「Pinky Glovesは、月経血が汚れているためタンポンやナプキンを交換するときに、手袋が必要だと考える男性が経営するドイツのスタートアップ企業です。どこから始めればいいでしょうか?月経血は非衛生的ではありません。これは生理を恥ずべきものと印象付けるでしょう」
「血が“汚れている”という神話は農業前の時代にまでさかのぼり、月経についての否定的なタブーが多くの異なる人々や場所で独立して現れました。月経血は、聖書、コーラン、および最初のラテン語百科事典では“汚れている”とされています」
「1900年代には生理が“有毒で病気を引き起こすもの”としてタブーとして考えられていました。メノトキシンという用語は、月経中の看護師が扱った花が、より早くしおれたと医師が結論付けたことで造られました」
「私たちは今、月経血が有毒ではないことを知っています。これらのタブーはスティグマに貢献しており、21世紀でも、生理は恥ずべきことで汚いという考えは続いています。
ピンキーグローブのインスタグラムより:『女性は、ゴミの中の不快な臭い、バクテリア、細菌を避け、使用済みのタンポンを他の人の目から守ることができます』」
同ツイートには4月17日(土)10時時点で4459件のリツイートと1.2万件の引用リツイート、2.1万件のいいねがついており、中でも引用リツイートの多さが目を引く。引用リツイートでは、ドイツ語や英語、スペイン語、日本語など複数言語で、各国の女性たちがClueに連帯し、怒りを表明している。
IKEAドイツも皮肉のツイート
この騒動を受け、北欧スウェーデン発祥の世界最大の家具メーカー「IKEA」ドイツは、公式Twitterアカウントでピンキーグローブを皮肉ったツイートをしている。
「誰も必要としてない発明品を蓄える(ゴミ)箱」と記載された画像に、「そして何よりも、グローブなしで使えます」とコメントをつけたツイートには1万件以上のいいねがついている。
発行部数がヨーロッパで最も多い、ドイツのニュース週刊誌「デア・シュピーゲル(Der Spiegel)」は、「ペニス手袋はどうですか?」というタイトルの記事を掲載した。記事中では、トイレでペニスを触るときや、ニキビを触るとき、また鼻くそをほじるときに手袋を使用してはどうかと提案し、ピンキーグローブは「人類を前進させる製品アイデアの始まりに過ぎない」と皮肉っている。
「#PinkyGate」のタグで広がる批判
ピンキーグローブは「#Mansplaining」で「#periodshaming」だと批判が広まり、Twitterでは「#PinkyGate」というタグも作られている。
マンスプレイニング(mansplaining)とは、「man(男)」と「explain(説明する)」を掛け合わせた造語で、女性に対して横柄、また見下しながら、必要のない説明をしてくる男性を指し、近年日本でも使われるようになっている。
ピリオドシェイミング(periodshaming)は「period(生理)」と「shaming(恥ずかしい思いをさせる)」をつなげた言葉で、生理を恥ずかしいものとして扱ったり、そう思わせることをここでは指しており、しばしば「スティグマ」と同じ意味合いを持つ。
また「#PinkyGate」の「〜gate」とはアメリカの政治スキャンダル「ウォーターゲート事件」にちなんで、スキャンダルを説明するときに、事件を表す名詞の語尾につけることで「スキャンダル」を表す接尾語として機能するものである。ここから「ピンキー」は世界的なスキャンダルとして認識され始めていることがうかがえる。
フェムテックが世界的に注目され始めているが、当事者性に欠ける安易なフェムテック参入には炎上のリスクもある。またSNSの発達によって、一国のスタートアップ企業の炎上案件が数日のうちに世界的な出来事になってしまうことも、今回の一件を通してわかった。