「セックスが痛い、でもした方がいいよね…」「彼とのセックスがつらい、どう伝えようか。彼女はセックスが痛そう、どうすればいいんだろう」「相手を傷つけたいわけではない…」
セックスは二人でするもの。だからこそ、セックスにまつわる悩みを解消するには、相手との対話が欠かせません。
それなのに、セックスの話となると、なぜこんなにコミュニケーションが絡まってしまうのか。
いや、これってそもそもセックスだけの話なんだっけ?
今回は、セックスやパートナー間の悩みについて15年以上、のべ15,000件以上の電話相談に応えてきたカウンセラーの西郷理恵子さんに話を聞きました。
セックスレスの相談は減少傾向。落としどころを見つけるしかない?
ーー西郷さんは、心理カウンセラーとして、夫婦間の悩みなどの電話相談をされています。性行為に関する相談も多いのでしょうか?
多い相談としては、
- 女性の性機能障害→挿入恐怖、性交痛、濡れない、嫌悪感、性欲低下
- 男性の性機能障害→女性の膣で射精できない、勃起力が不十分、中折れ、性欲低下
- 性欲、性癖、性的対象、性的指向、性自認(LGBTQ、SOGI)
- 性経験、自慰、性器のサイズ、包茎、避妊、初体験の不安
- 妊娠、避妊、中絶。
など、多岐にわたります。
今はインターネットで性の情報は得られやすくなりましたが、知識はあっても、個別の悩みに関して一人で、どうするべきか分からなくなった方が匿名の有料相談サービスとして利用しています。
家族や親しい友人にも話しづらいことが多いですからね。
ーー 情報は増えていても自分に合っている情報を見つけるのは簡単ではないですよね。15年間にわたり相談員をされている中で変わったと感じることはありますか?
既婚者のセックスレスの相談は年々、少なくなっている印象です。
それは悩みが少なくなったわけではなく、セックスレスに関する情報がネット上に増えたため、各自が自分の状況において、落としどころを見つけるしかない、と判断するようになったのだと思います。
具体的には、自分たちが改善できるか試す、諦めて我慢する、新しい相手を探すなどですね。
普段から話を聞いてくれないから、言うのが怖い。でもこのまま我慢を続けるの…?
ーー セックスのお悩みとして、性交痛もあります。身体的な要因だけでなく、メンタル部分ではどのようなことが要因になっていると考えられますか?
女性の性交痛の原因として考える背景には、器質的なこと以外では、パートナーとの関係性や、本人のメンタル的な理由があります。
男性の場合は、セックスができないと感じたら、勃起せず、挿入はできません。
しかし、女性は、本人が積極的にセックスをしたいわけではなくても、体の構造的にセックス自体はできてしまう。
しかし、そのような状態の場合、十分に濡れないままで、挿入に至ることがあるため、性交痛につながりやすくなります。
ーー 具体的には、どのような状態だと性交痛になりやすいのでしょうか?
女性性機能外来や、婦人科にて診察を受けて、器質的には問題ないにも関わらず、性交痛の症状がある場合は、大まかに以下のケースがあります。
- 産後で、女性ホルモンのエストロゲン低下により、腟潤滑液の分泌が不足し、腟が乾燥したり、萎縮する
- 育児・家事・仕事で、疲れ果てている
- パートナーへの義務感やプレッシャーで快感を得る余裕がない
- コンプレックスや自信のなさから、行為に集中できていない
- セックスや自慰の経験が乏しく、緊張が強く、性的に興奮できない
- 性にネガティブな経験や思い込みがあり、性欲がないor性欲を抑圧している
- ノン・セクシュアル(非性愛)で、性的な欲望や興奮を感じない
- 充分な前戯がない、挿入時間が長すぎるなど、パートナーのセックスに不満がある
- パートナーから熱心な前戯はあっても、気持ち良くない
- パートナーは人としては良い人だが、性的な魅力を感じない
- パートナーとの関係性で、不安、不信感、苛立ちを感じている
ちなみに、パートナーとの関係性が悪い場合、
「夫から、『セックスしないと離婚する』など脅される」
「セックスしないと相手が不機嫌になるから、仕方なく応じているうちに、性嫌悪になったり性交痛を感じている」
というのは、セックス以前の問題ですので、離婚相談になることが多いです。
ーー パートナーとの関係性によっても変わりますよね。パートナーにどう伝えればいいかと悩んでいる方もいます。コミュニケーションにおいて、どのような課題があると感じますか?
セックスに限りませんが、普段から話を聞いてくれない相手に、伝えるのは怖いことでしょう。以前に相手から否定された経験があると、話題にするのを躊躇するのは当然です。
また、話し合っても、必ずしも解決するわけではありませんし、話さなければいけないと分かっていても、問題が先送りになってしまうことはよくあります。
解決しなくても気持ちを分かってくれたと思えるかどうかで、今後二人で協力していけるかどうかが決まるでしょう。
最も多い相談は、「相手を思いやり、合わせているが、自分はこのまま我慢していて良いのだろうか」という性を含めた人生相談です。
ところで本当にセックスをしたいの?まずは自分に聞いてみる
ーー 相手を思っているからこそ、どうしたらいいか分からなくなっていくということですね。
女性からであれば、
「男性パートナーを気遣い、今まで「感じているフリ」をしてきたので、今さら痛いと言いづらい」
「『痛いからやめて』と伝えるとセックスをやめてくれて、代わりに手や口で愛撫をしたが、彼のペニスは萎えてしまった。それ以降、彼からセックスを求められなくなり、女性として自信を失い、悲しい。彼も男だから性欲があるのに、相手ができず申し訳ない。でも浮気はしてほしくない」
男性からであれば、
「彼女が、過去の相手とのセックスのせいで、『挿入=痛い』というイメージになり、挿入を怖がって、頑なに痛がってしまう。挿入にこだわらず、辛抱強く、愛撫などのスキンシップをしているが、長らく進展がなく、年月が過ぎている。お互いにとって、関係を継続すべきなのだろうか」
などがありました。
ーー セックスがきっかけではあるものの、2人の関係をどう続けていけばいいのかというお悩みですね。これらのお悩みに対しては、どのような対処法があるのでしょうか?
まず最初に確認しているのは、相談者の方と相手の方がこの悩みを本当に改善したいと望んでいるのかということです。
「彼のためにセックスしなくちゃ」という義務感や、子どもが欲しいからそのためだけにしたいと思っていたり、彼が浮気さえしなければセックスはなくてもいいと考えいるなど、話を聞いていくと、本当はセックスをしたくないと思っている方もいます。
本当に今の状況を治したいのか、それとも本当はできるだけセックスはしたくないようにしたいのかを、まずは確認していきます。
カップルの場合も、話し合いができている方と話題に出せない方もいますが極力、二人の意見を確認してもらうことからスタートします。
「気持ちよくない」は言わなくていい
ーー 悩みを改善したいとなった二人にはどのようなアプローチになるのでしょうか?
例えば、性交痛があったり気持ちよくないと感じている女性の場合などに対しては、どのように触ってもらいたいかをご本人が分かっているかを確認します。
マスターベーションを経験されている方であれば、自分で気持ちがいい場合と彼に触ってもらったときとで気持ちよさがどう違うのか。伝えてみて、変わったかどうか。
中にはセックス中に感じているフリをしてきたという方もいます。
その場合は、「前までは感じてたんだけど、年齢とともに感じ方が変わってきたのかも。最近はこうしてもらった方がいいのかもしれない」と、感じ方が変わってしまったことにして話してみようと提案したりしています。
実際に年齢とともに濡れづらくなることもあります。
ーー 「気持ちよくなかった」ということは伝えないということですね。伝える際にも工夫をしたほうがいいのでしょうか?
「気持ちよくなかった」ということをあえていう必要はないですよね。
愛撫にしても、自分が気持ちいいと感じている場所を見つけられる勘がいいパートナーとそうでない方がいます。
真面目ですごく一生懸命なんだけど要領を得ていない人もいます。その場合は、マスターベーションで触ってみたら気持ちよかった場所を伝えたり、見せたり、より具体的に伝えていく必要があります。
とはいえ、相手によって素直に受け止めてくれる方と、これまでのやり方を変えるのがプライド的に難しいという方もいるので、パートナーの性格や関係にもよります。
ーー 伝えてみたら相手が不機嫌になるから言えない、という関係もありそうですよね…。
提案したことを受け入れてくれるかどうか、これはセックスに限らずそうですよね。
コミュニケーションの方向性としては、具体的に丁寧に、提案形で「今度、これやってみない?」と前向きに伝えられるのが理想です。
とはいえ、前向きになれる二人なのかどうか、そうでないケースはやはりあります。ただ、どうせコミュニケーションするなら、提案型で話していけると前に進みやすいと思います。
セックスが最後までできなかった。「最後」って?セックスに決まりはない
ーー 痛みがあると難しいこともありますが、提案しながら二人の理想を見つけていけるといいですね。
そうですね、あとは男女のセックス観の違いもありますよね。生物的に男性の場合は性器の形状もあり、セックスといえば勃起、挿入、射精と思っている人もいます。
一方で女性によっては、相手から愛撫される前から、「今日どうしようかな?」から、すでにセックスがはじまっていることもある。
必ずしも「挿入しないとセックスじゃない」と思っているわけでもなく、挿入がなくても満足する場合もあります。
女性も「最後までやってない」という表現をする方がいますが、最後が挿入になっていて、挿入しないとセックスが完了していないと思っている方は多いですね。
ーー 男性の射精を、最後と考えている方も多いですよね。
そうなんです。でも、セックスの定義をもっと広く捉えて欲しいです。性交痛がなくなればもちろんハッピーだけれど、そうじゃなくても、セックスって性器に入れて出しての運動だけじゃないよということはお伝えしています。
それに、毎回がフルコースじゃなくていいよってこともありますよね。
完璧なセックスはないということをヒントにしてもらって、二人が今できることからスタートしていくのが大切かと思います。
女性の性感帯も身体中に色々ありますし、自然妊娠が目的でなければ必ずしも射精を中でしなければならないわけでもない。セックスってもっといろんなことができるのかもしれませんよね。
だからこそ、やって欲しいこと、やってみたいことなど、挿入だけじゃない試してみたいことをもっと話す機会があってもいいと思います。
ーー 楽しみ方について知る機会もないですもんね。
相談者の状況やモチベーションにもよりますが、セックスが痛くて挿入ができないのでセックスから遠のいてしまったという方にはそういう話をします。
カップル間で、今のふたりが何をできるのかを見つけていくために会話をしてもらえるのが理想です。
すごく仲がいいカップルですらセックスのこととなると話せない、この話題に触れてはいけないと思っていることもあります。
ただ、セックスについて「私はこう思っている」とお互い話せたら半分は解決しているので諦めずに話してみてもらいたいです。
ーー 二人のすり合わせが本当に難しいですよね。
セックスができていないことで、男女ともに、自分が求められていないのではないかと自尊心が傷ついてしまう人もいます。
セックスができないだけで、いろんなことを繋げて考えて、悩んでしまうんですよね。
結局、セックスをしていようが、していまいが、相手に受け入れられてないと感じてしまうことってあるんです。相手の希望に沿っていれば全てうまくいくけれど、そうじゃないとうまくいかないとか。
セックスに限らず日常の生活がそのような環境だと、セックスにおいても同様のことが起きていたりします。
解決策があっても、それが自分の相手に適応できるのかがネックですね。
話し合った結果、セックス観や理想が違った
ーー 男女ともに難しい課題ですね。頑張ればいい問題でもないですしね。
挿入障害でセックスが痛い方からすれば、どれだけ男性が献身的に愛撫して、普段も頑張ってくれているとしても、受け入れがたい状況に変わりはなかったりします。
一方で、その相手は、女性が改善したい気持ちがあるのかが分からなくなり、このままでいいのかと虚しくなることもある。
ーー 話し合った結果、お互いの求めるものが違うと気づいてしまったら、そのあとがしんどいですよね。
本当にそうなんです。
最初はとりあえず子どもが欲しいって向き合うけれど、30代で子どもができて別にもうしなくてもいいって片方が思ってしまうと、相手は、まだまだ性欲があるのに、ここからあと40年以上セックスなしで生きていけるのか…と悩んでしまうこともあります。
だからこそ、コミュニケーションができる相手なら、対話をした上で、自分がどんな人生を歩みたいのかを考える必要があります。
改善を目指せる場合は、そこに向かえばいい。
けれどそれが難しかったり、時間がかかる場合に、この相手でいいのかを考えることもありますよね。
例えば、男性で、パートナーの女性と一生セックスができないと分かってしまった場合に、マスターベーションや愛撫、風俗などで処理していくことで自分が満足できるのかと。
適当に遊べばいいやと考える人は悩まないのですが、真面目な人であればあるほど、問題にまっすぐ向き合って悩む。
ーー 自分を追い詰めてしまうと。
泣きながら相談する男性もいます。
彼女に挿入障害があるのは彼女自身のせいではない。それに、挿入障害があることで彼女が好きな気持ちがなくなるわけでもない。
だから、こんな理由で別れようと考えている自分はとても悪い人間なのではないのかと。だけど、自分の性欲もあるしどうしたらいいんだと。
でも、お二人とも悪くないんですよね。だからこそ難しい。
ただ言えるのは、どの選択肢をとってもいいということです。彼女に寄り添うことだけが正解ではないですからね。
納得いくまで話し合い、本当に越えられないものなのかをすり合わせた上で、お互いが無理したり我慢したりするくらいであれば違う道を選ぶ。それは決して悪いことではありません。
なので、性交痛一つとっても、単なる痛みだけではなく、二人の今後について考えていくことが必要になることも少なくはないです。
諦めずに、ドアを叩いて欲しい
ーー 自分が悩んでいることを伝えることにも罪悪感を持ってしまいそうですね。
だからこそ、誰かに聞いてもらいたいという気持ちがあるんでしょうね。でも、彼自身にも幸せになる権利があるんです。
大抵は子どもがいないカップルの場合にこのような相談が多いですね。
そして、これは女性にも伝えていることです。性交痛を治したいと頑張っている女性にも我慢しない関係を選んでもいいんだよと伝えたいですね。
治せるものなら治したいけれど、治せなくてもセックスをしない選択肢だってあります。
パートナーとどうなるかは別問題ですが、自分を追い込んで無理をする必要はないよと。
ーー まずは自分を見ることからスタートですね。
そうですね。そして、セックス以外のコミュニケーションがどういう状態なのかを紐解いて、考えを整理していく必要がありますね。
カップル同士で話し合い、歩み寄りや、妥協点を見いだせるか、セックスがどれくらい優先順位として高いのか、セックス以外の関係性が良好なのか。
二人の関係をそもそも継続すべきかを、総合的に一緒に考えていく必要があります。
ーー 最後に性交痛をはじめ、セックスに悩んでいる方にメッセージをおねがいします。
安心できる誰かに話してみて欲しいなとは思います。
最終的には、自分がどう生きていきたいか、どういうセックスライフを送っていきたいか、そこに対してどのようなモチベーションがあるかで、自分の選択肢が決まっていきます。
一人で内省することもできますが、考えすぎると、こういう考えを持っている自分はおかしくないのだろうか?とぐるぐる考えが巡って自分を責めてしまう人もいる。
客観的に話せる人と会話できると変わることもあると思います。
ただ話す相手を間違えると傷ついてしまうこともあるので、安心できる人を見つけるのは難しいことも多いですが、諦めずに話せる人を見つけて欲しいです。
専門医の相談先として婦人科の先生、泌尿器科の先生を探すのも同じですよね。それぞれの先生で考え方の違いもありますが、探さないことには見つかりません。
諦めずに扉を叩いて欲しいです。
監修者プロフィール
西郷理恵子(さいごう・りえこ)
17年に渡り1万件以上の恋愛・結婚・性に関する電話相談を行う。2023年3月まで東邦大学医学部医学科客員講師として、東邦大学病院泌尿器科リプロダクションセンターで「女性性機能障害」の相談業務を行う。日本性科学会会員。エキサイトお悩み電話相談カウンセラー。