「人生100年時代」という言葉を繰り返し聞かされ、女性も50代、60代…と長く働き続けることを求められる現代。

自分の体や心を労わりながら働くことが大切です。特に女性は、女性ホルモンの揺らぎが日々の体調を左右します。自分の体のサインに目を向けながら健康を維持することが欠かせません。

ヘルスケアカンパニーの大塚製薬は、女性のヘルスリテラシーの向上に寄与する

「女性の健康推進プロジェクト」を2016年から開始。

WebサイトやYouTubeなどを活用した情報発信や、企業向けの女性活躍や健康経営に関するセミナーなど、活動を続けてきました。

女性の健康推進プロジェクトをリードする大塚製薬の西山和枝さんに話を聞きました(インタビューは2023年11月に実施)。

大塚製薬株式会社 ニュートラシューティカルズ事業部 女性の健康推進プロジェクトリーダー 西山和枝さん

「女性の健康推進プロジェクト」を始められた背景について教えてください。

西山さん(以下同):女性向けの製品を扱っているので、女性の方々とお話する機会が多いんですが、女性ホルモンの働きやライフステージごとに自分の体がどの様に変化していくのか知らない人が多いと感じていました。

女性の健康推進プロジェクトから情報を発信することによって、皆さんのヘルスリテラシーが上がれば、私たちの製品の必要性も理解してもらえますし何よりも多くの女性を幸せにできると考えました。

どんな活動・発信をしていますか

働く女性の健康の実態調査をして、 その調査結果をプレスリリースとして発信しています。最近はPMSや更年期症状が昇格の障壁になっていたり、仕事を続けられずに退職したりと、働く女性のキャリア形成においても影響があることが調査で明らかになっています。

女性特有の健康課題を抽出して、何か対策を講じてほしい。それをまずは“企業ゴト化”するための発信です。

また以前から企業向けに「女性の健康」出張セミナーを実施してきました。でもセミナーを受けてくださる方って、ある程度リテラシーの高い人たちなんですよね。そうではない人たちにもぜひ聞いてもらいたいと思って活動しています。

企業からの反応に変化は感じますか?

2019年に経済産業省の「健康経営優良法人」の健康経営銘柄の認定要件の1つに「女性の健康課題への取り組み」が加わり、企業の意識もガラッと変わった印象があります。

それ以前は企業の担当者の多くが男性で、「女性ホルモンの働きですか。それなら女性だけに参加してもらいます」「うちは男性が多い会社なので必要ありません」という企業も多かった。

ですが実際に女性だけを集めてセミナーをすると、「こういうセミナーは男性の管理職にこそ聞いてほしい」 という声がアンケートでたくさん寄せられたんです。

その後、経産省の認定要件に「女性の健康保持・増進に向けた取り組み」が含まれるようになったら逆に「何かしなければならないんですが、どうしたらいいでしょうか」と相談が来るようになって。男女交えたセミナーや男性管理職向けのセミナーも増えて、まさに“企業ゴト化”が進みつつあると肌で感じています。

プロジェクトとしての目標はあるのでしょうか。

最終目標は「女性の健康を考える日常の醸成」です。

労働生産性と女性の健康課題は深く関わっていますが、取り組んでいる企業はまだ一部。企業の人事は、男性の対象者が多い喫煙、メタボをはじめメンタルヘルスなど男女分け隔てなく医療費に関わりそうなものに関しては積極的に取り込んできたと思います。

月経やPMSの不調に関しては、気づかれないように仕事している方たちが大半ですよね。「PMSでしんどい」って誰も口に出さない。だから、会社も女性の健康問題に気づかなかったと思うんです。

最近ようやく少しずつ月経やPMS、更年期の話題が増えてきて「女性には揺らぎがあって、大変なんだ」と企業もようやくプレゼンティーイズムに影響していると気づいた。

女性の健康に対策を講じることはコストではなく投資であって、人的資本経営だと思っています。

セミナーを希望する企業はヘルスケア関連の企業が多いですか?

この業界に限らずニーズはさまざまで、最近は建設会社などの男性従業員の割合が多い企業からも問合せをいただきます。

というのも、男性社会のイメージがあると女性が集まらないという採用面での課題もあるからかなと思いす。日本は全体的に人材不足なので、その解決のためにダイバーシティの考えが盛んになってきたと感じます。

企業が女性の健康課題に対して対策を講じることが、生産性や株価にも影響する時代です。さらにZ世代は企業がブラックかホワイトかをよく調べていますよね。ちゃんと長く働ける環境なのかどうかが、若い人材のリクルートにも関係してくると思います。

最近は企業もダイバーシティ&インクルージョンを推進していますが、そこにエクイティ(公平性)の概念を入れてもらいたいと思います。女性というだけで健康課題を抱えている人もおり男性よりもマイナス(不利)です。プラス(有利)とマイナス(不利)が同じ組織にいるところに同じツールを用意しても意味がない。

その差分を埋めるために厚くケアする必要があります。まずは同じ土俵に立てる環境を作ることがエクイティの概念なんです。

企業にとって女性の健康は適切な投資ということですね。プロジェクトの中では「新・セルフケア」も提唱されています。

大塚製薬が掲げる「新・セルフケア」は自身が正しい知識を持ち、行動に移すことに加え、婦人科検診/健診を受けること、かかりつけ医をもち医療のサポートを受けることです。

大塚製薬株式会社のプレスリリースより

私たちの調査によると「女性ホルモンの働き」について知識を持っている人はわずか30%ほどでした。知識のある人は、食事や運動、婦人科医受診など行動しています。

女性ホルモンの働きについて学んで、知識を得て、対処して欲しいと思っています。体調が悪いにも関わらず、病院に行かない人も多いので、医療機関を受診することも合わせて啓発しています。

婦人科の受診は私たちメディアも啓していますが、まだまだ課題ですよね。

そこの行動変容は本当に難しいですね。若い世代のほうが定期的に婦人科に通い、ピルを処方してもらっている話をよく聞きます。私たちの世代(40代以上)だとまだまだお産のイメージが根強くて、そうでない場合の婦人科受診のハードルが高いように思います。

フランスなどの欧米諸国では、月経が始まったらどういう不調が起こるのか様子を見て、医師と相談しながら対処していく婦人科のかかりつけ医が当たり前になっていると聞きます。子どもに生理が来ると、まずかかりつけ医に「うちの娘もお願いします」と紹介する。婦人科は何かあってから行くところではなくなっているんです。

日本でも40代以上の親世代がリテラシーをあげて、子どもに適切に対処してあげられるようになったらいいなと思います。実際にセミナーをしていると「もっと早く知りたかった」という声を多く聞きます。

結婚の有無に関わらず、働き続ける女性が増えています。これから更年期を迎える世代が多いにも関わらず、企業も個人もリテラシーが追いついていないように感じます。

これまでは更年期世代で働いてきた女性が、企業にはまだまだ少なかった。月経による不調もそうですが、更年期の症状に悩みながらも病院に行かない人が多いですよね。誰にでも起きる症状のうちの1つと考えられていて、まだ軽視されてるのかもしれません。

弊社では不妊治療や更年期症状の治療時に使える「積立有給休暇制度」があります。使いづらいという声もあるので改善は必要ですが、身体的・精神的にも金銭的にも痛みを伴うなかで、制度があること自体はいいことかなと思っています。

(編集部注:大塚製薬が新制度「セルフケア休暇」を2024年1月より導入。同社はこれまでも不妊治療や更年期症状の治療時には積立有給休暇制度が利用できたが、理由を明確にしなくても、すべての社員が利用しやすい制度として、新たに「セルフケア休暇」を導入。2023年12月14日プレスリリースより)

また弊社には婦人科の産業医がいますが、そういう企業はまだ少ない印象です。しかし、福利厚生で、女性向けに弊社の製品を導入してくださる企業も増えてきましたので、その後、どのような行動変容が起きるのか楽しみです。

2022年に厚労省が初めて更年期の実態調査を始めています。国として更年期の症状に目を向けるようになり、制度も含めて少しずつ変わっていくことを期待したいです。

とある企業の更年期世代で管理職されている女性の方から、周りの同世代の女性はほとんど辞めた、という話を聞きました。

更年期で仕事が続けられなくて辞めてしまうのは企業も困るし、個人も困りますよね。

政府が女性管理職30%を目標掲げていますけど、役員比率30%なんてもっと難しい。大前提として女性の健康を考えて欲しいですし、セルフケアもしていかないと難しいでしょうね。

実際にセミナーをすると「まずは知ることが大事」というのはわかってもらえるので、やってよかったと思います。男性から「自分の妻も大切にしなきゃいけない」という声を聞くこともあり嬉しいです。女性からは「もっと早く知りたかった」「会社がこういうセミナーやってくれることに感謝」という声が上がっています。

プロジェクトを進める中で、なかなか超えられない障壁はありますか。

昔ながらの価値観をお持ちの役員の方に理解してもらい、柔軟な気持ちを持ってもらうことは難しいと感じるときもあります。でも、上層部に「本気でやり進めなきゃいけない」という意思の固い人がいないと推進するのは難しいので、調査結果や労働生産性がどれぐらい下がっているのか等のデータを示し続け理解していただいております。

ジェンダーギャップ指数(*)もそうですけど、私が生きているうちに100位以内ってもう無理かなとも思います。日本も少しずつ変わってはいるけれど、このスピード感では遅すぎるし、その遅さに気づかなきゃいけない。これは根深いと本当に感じます。

(*2023年の日本のジェンダーギャップ指数の総合スコアは0.647(昨年は0.650)、順位は146か国中125位)

女性管理職を確実に増やすべきだと思いますが、一方で女性の誰もが管理職を目指したいわけでもないです。個人がどう生きたいのか、フォローアップできればいいですよね。

昇格申請の時期に、女性社員から「リーダーをやりたいわけではないけれど、昇格したい」という意見を聞くこともあります。私はそれも全然アリだと思っています。マネジメントできなくても、スペシャリストになればいい。マネージャー職をしなければ昇格できないというのは、ダイバーシティとは言えないと思います。

仕事への考え方も人それぞれだし、女性の健康もそうですよね。自分の物差しで他人を測るのではなく、「痛い」って言ったら痛いし、「やりたい」って言ったらそれをやれる環境を作っていくのが重要です。女性活躍だから、女性を増やしましょうという安易な話ではなく、一人ひとりに合う働き方ができるように組織を変えていくことが本当のダイバーシティです。企業としてはかなり時間と労力が必要だと思います。

せめて個人のリテラシーを上げて、辛い部分を少しでもラクにできるようにうまくコントロールして、自分の人生を楽しく生きようと思ってもらいたいです。

女性が生きやすくなると、男性も結果的に生きやすくなりますよね。

そうそう。「なんで女性だけ?」と聞かれることがあるんですけど、一緒に働いてる人が80%の力しか発揮できない状況だと、周りの人がその20%を補填しなければなりません。そこをセルフケアによって90%、100%と発揮できるようになれば、その分、男性にも余裕が生まれて余暇や家族との時間に充てられる。そういう発想を持って欲しいですよね。

小さな視点ではなく、大きな視野を持って考えて欲しいなと思います。

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