妊活を開始するとき、多くの人がぶち当たる壁。それは低用量ピルの服用の中止です。
普段から、生理痛を和らげるためや、月経困難症の治療など、婦人科にかかり低用量ピルを服用しているという人は少なくありません。
低用量ピルは避妊薬であるため、当たり前といえば当たり前なのですが、妊活開始とともにまずはピルの服用をやめなければならず、人によっては再び重たい生理と向き合わなければなりません。
そんなとき、どんな対処法があるのでしょうか? この記事では、妊活のための準備やカラダ作り、妊活中の重たい生理の対処法などを、産婦人科医の柴田綾子先生に聞きました。
妊活のためにまずやること
——妊活を開始するにあたって、まずやることは、どんなことがありますか?
避妊目的や、月経困難症などで低用量ピルを服用している人は、まず、ピルの内服を中止します。個人差がありますが、内服をやめてから1~3カ月ほどで排卵がもどってきます。
早めに産婦人科を受診して、子宮筋腫や子宮内膜症がないかをチェックすることも大切です。ぜひ子宮頸がん検診も受けてください。最近、妊娠が分かったあとに子宮頸がんや異形成が発見される方が1年で230人以上いることが報告されています。
ご自身で妊活するときは、基礎体温を測るか、薬局で購入できる排卵予測検査薬などを使って、性交渉のタイミングをあわせていきます。排卵日の1~3日前に性交渉のタイミングを合わせると妊娠しやすいと言われています。
タバコを吸う方は、禁煙することをおすすめします。タバコや卵子や精子の質を低下させ、妊娠しにくくなると言われているためです。体重は標準体重が1番妊娠しやすく、肥満でも痩せすぎでも妊娠しにくいと言われています。妊活中にとくに大事な栄養素として葉酸、鉄分、カルシウムを多く摂ることが勧められています。葉酸は、赤ちゃんの神経をつくり、奇形のリスクを減らします。鉄分やカルシウムは妊娠中に不足しやすい栄養素です。
こうした妊活に向けた体づくりを「プレコンセプションケア」と言います。
「生理に向き合うのがつらい」の声
—— 重い生理痛や月経困難症などを理由にピルを服用してきた人が、ピルをやめると、生理痛などの症状は元に戻ってしまうのでしょうか?
個人差があります。子宮内膜はピルによって薄くなっているので、出血の量や痛みはすぐには元に戻らないことが多いです。
ただし生理痛の原因として子宮筋腫、子宮腺筋症、子宮内膜症などがある場合、痛みは元に戻りやすいと思います。
—— 柴田先生が妊活中の患者さんと接する中で、聞かれる声などがあれば教えてください。
「生理がくるたびに辛くなる」、「自分がダメと言われているように感じる」、「友人と比べてしまい落ち込む」、「街なかで子どもをみるのがつらい」といった声を聞くことがあります。
ピルの服用をやめたことで、「重たい生理に向き合わないといけないのがつらい」といった声も。妊活中に生理があると「妊娠できなかった」事実を受け止めることに加え、生理の症状もあるため、精神的にも身体的にもつらくなりやすいのだと思います。
妊活中の生理痛。対処法は?
—— 妊活中の、生理に関する症状に対して、何か対処できることはありますか?
定期的な有酸素運動(ヨガ、水泳、散歩、ジョギング)などは、生理痛やPMS(月経前症候群)の症状を和らげる効果があるとともに、標準体重を維持できて、妊活にもよい影響があります。
ピルの内服を中止して生理痛がつらい場合、妊活中でも使える薬として、アセトアミノフェンの痛み止めや、漢方薬があります。ロキソニン・イブプロフェン・ボルタレンなどのNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる痛み止めは、妊娠が分かる前までであれば大きな悪影響はありませんが、流産のリスクが高まるという報告もあるので、妊娠が分かったら使用を避けたほうがいいでしょう。
市販薬の中には、アセトアミノフェンと一緒にカフェインやNSAIDsが含まれていることがあります。妊娠中のカフェインの摂取は1日300mg以下がおすすめです。成分を確認してから服用してください。
アセトアミノフェン配合の痛み止めは市販薬もあります。痛み止めはクリニックでも処方しているので医師に相談してみるとよいでしょう。
妊活中でも内服できる漢方薬(*1)として、当帰芍薬散、温経湯、桂枝茯苓丸、芍薬甘草湯、柴苓湯などが用いられます。
ハーブ(*2)は一部、妊娠中は避けたほうがよいとされているものがあります。避けたほうがいいハーブの代表的なものとしてカモミール、アロエ、フキタンポポ、セイヨウネズ、 ペニーロイヤル、クロウメモドキ樹皮、コンフリー、ラブラドル茶、サッサフラス、ドックルート、ロベリアソウ、センナ葉などがあります。
また、妊娠28週以降はポリフェノールをたくさんとると赤ちゃんの血管(動脈管)に悪影響がでると言われています。注意してください。
ショウガやレモンバーム、オレンジピール、ローズヒップは1日2〜3杯程度であれば安全であると考えられています。
我慢せずに、痛み止めの市販薬を
—— 痛み止めは「クセになる」、「定期的に飲むと効かなくなる」という話を聞いたことがあるのですが本当ですか?
よく言われる「クセになる」、「効かなくなる」といったことはありません。つらいときは、我慢せずに生理痛を和らげる市販薬を服用しましょう。
NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の痛み止めは、服用する頻度が高いと胃に負担がかかり、胃痛の原因になるものもあります。アセトアミノフェンは胃に負担がかかりにくく、妊活中や妊娠中でも比較的安全に服用できます。
痛み止めの薬が効くまでには約30分かかるため、生理痛のときは痛みが強くなってから服用するのではなく、痛みを感じそうだと思ったら早めに服用しましょう。
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<参考>
*1 昭和医会誌 第64巻 第1号 疾患と漢方 6.産婦人科疾患の漢方療法
監修者プロフィール
淀川キリスト教病院 産婦人科専門医
柴田綾子
2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修。世界遺産15カ国ほど旅行した経験から女性や母親を支援する職業になりたいと産婦人科医を専攻する。 総合医療雑誌J-COSMO編集委員を務め、主な著者に『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社,2017)。産婦人科ポケットガイド(金芳堂、2020)。女性診療エッセンス100(日本医事新報社、2021)。明日からできる! ウィメンズヘルスケア マスト&ミニマム(診断と治療社、2022)。