今月もむくむくと食欲が沸き始め、そろそろおいでなさるな、生理のやっこさん……という時期に入ってきた。

初潮での出会いがまずかったまま、ずっと苦手だった生理。今日は、大人になってからの生理との付き合い方について考えてみた。

低用量ピルで楽になった、生理前のメンタル

苦手と言ったところで手加減してくれるはずもなく、容赦なく毎月やってくる生理。そしてなかなかにひどいのが生理前のPMS(月経前症候群)だ。

ここ数年は低用量ピルを飲むようになって、以前よりはずいぶん落ち着いた。

そもそも馬車馬のように働いていた20代の頃の私は、生理前のいろいろな症状に「PMS」という名前がついていることも知らなかった。今になって思えば、あれもこれも、全部PMSだったのね、とわかってなんだかホッとしたのも、ここ10年くらいのことのように思う。

特にメンタルのゆらぎが酷く、なんらかの精神病なんじゃないかと思うくらいのやばさだった。

恋人とどれだけ幸せな一夜を過ごしていても、その生理前スイッチがやってくると途端に情緒不安定になり、彼が背中を向けて寝ているだけで「……待って……なんで背中向けて寝てるの?……私のこと、嫌いなの?私は何番手の恋人なの!? ちくしょう!こうなったら…死んでやる!そして死ぬほど後悔させてやる!一生私のことが忘れられなくなるだろうな……ふふふ」くらいまで一瞬で思い詰めたりすることがよくあった。マジで怖すぎる。

イライラしては周りの物にあたりちらして部屋の中が嵐のあとみたいになったり、攻撃的な気分が高まってしまいセクハラ上司の実態を晒すメールを本社に匿名で送りつけたり、逆に凹みすぎて、職場の人がバックヤードで今コソコソ話してるのはきっと私の悪口に違いないと勘違いして泣いてしまったり、とにかく情緒の高低差が酷かった。

それらが全部、PMSという生理前の不調として認識できた時の安堵と言ったらなかった。ありがとうインターネット。ありがとう情報社会。

低用量ピルを服用するようになって、本当に楽になった。情緒の高低差が北アルプス山脈くらいだったのが、高尾山くらいの高低差になった。

出血の量もとても少なくなったし、予定日がほぼきっちり定まっているのも、ものすごく助かる。本当にピルさまさまだ。

食欲だけはどうにもならなかった

しかし、そのおピル様にも私の食欲だけはどうにもできなかったようだ……個人差があるようなので、”私の場合は”ということだけれども、今も食欲だけはすごい。

普段であればご飯はお茶碗1杯でお腹いっぱいになる胃も、生理前に途端にブラックホールと化し、満腹中枢が機能しなくなる。2合くらいぺろっと食べられる。

さっき夕飯を食べ、食後のアイスまでも食べたのに、食器洗いが済んだらまた甘いものが食べたくなる。まさに暴飲暴食と書く字がふさわしい、暴れる食欲!ご飯、肉、スナック、スイーツ!甘いもの辛いものをありったけ持ってこい!

ナッツ?ヨーグルト?上質なタンパク質に、食物繊維?ばっかやろう!そんなもんだめだ!背脂ギトギトにんにく増し増しラーメン、骨つきの辛いカルビ、もしくはチーズで底の見えないサラミ盛り盛りのピザだ!

イラスト=斉藤ナミ

体に悪そうなものであればあるほどいい!邪悪をむさぼりたいんだ!ゲッヘッヘ!という暴力的な食欲が沸き起こる。

そして、どれだけ食べても「満腹?なんですかそれ?そんなことより夕飯はまだですか?」と、すっとぼけお婆さんになってしまう。 

だいたい生理予定日の1週間くらい前からその兆候は見られ、ちょっとずつ間食が増え始め、2.3日前には完全にメタモルフォーゼし、常に口の中に何か入れてもぐもぐしてないと落ち着かない状態になる。

暴食に伴って血糖値がバコーン!と跳ね上がり、偏頭痛もひどい。また、普段摂らない糖分、油分、塩分を摂取しまくっているためか、吹き出物やむくみもひどく、見た目的にもメタモルフォーゼしてしまう。

どうにかならんのかこの症状……。

意識高い系の食べ物じゃ抑えられない

もちろん、その食欲を我慢してみようとしたこともある。お腹が空いても、通常以上の量は食べないとか、18時以降は水分やフルーツだけにするとか。

それから、食べるものを玄米や低糖質のものなどに変えたり、ナッツやフルーツに置き換えてみたりもしてみた。

……しかし、やはり違う。そんな意識高い系の食べ物じゃ私の暴れる食欲は収まらない。なんならそれらを食べた後で、そろそろ肩慣らしは済んだ。じゃあ本番行こうか……と、ジャンクフード界隈を荒らしてしまう。

何より、それを我慢しようと無理に頑張っていると、途中で心が折れてやっぱり食べてしまった時の落ち込みがひどいのだ。せっかくおピル様が抑え込んでいた北アルプスがむくむくと膨らんできて、「こんなに貪り食べてしまう野蛮なブタ妖怪のような私、マジでダメ人間……」と落ち込んでしまう。

ーー生理前の食欲を我慢していたある日、こんな事件が起きたのだ。

沸き起こる食欲を無理に抑えすぎたためか、なんと私は深夜、家族が寝静まったあとにのそのそと起きてきて「何かねえか、何かねえか」と冷蔵庫の中を漁ってしまったのだった。完全に妖怪だ。

妖怪が見つけたのは、次男のために買ったアンパンマンウインナー。まだ小さかった次男が、幼稚園に行く前になんとか食べてくれる数少ないおかずだ。一個一個にアンパンマンキャラのイラストが描かれていて、子ども用に少し薄味で作られているそれらは、他のウインナーより少しお値段が高い。

夫や長男のウインナーとは分けてしっかり管理して、次男だけに毎朝2本ずつ大切に食べさせているのに、こともあろうかこの私が夜中にこっそり食べてしまったのだ。

こっそりといえど、沸き起こる食欲を無理矢理抑えていた反動で、欲望が剥き出しだ。

袋ごと逆さにして一気にガバーッ!!むしゃむしゃむしゃ!

真っ暗なダイニングで、冷蔵庫のあかりに照らされ、我を忘れて口いっぱいに子ども用の食料をむしゃむしゃしている大人の自分に対し、明日の朝にアンパンマンウインナーがなくて泣いてしまう次男の姿が想像できた。そして急に客観的になった私は、情けなさと罪悪感でぐちゃぐちゃな感情になってしまったのだった。

イラスト=斉藤ナミ

生理前は「好きなものを食べていい」

それからは、もう無理に食欲を抑えようとするのはやめた。

せっかくピルのおかげで前とは段違いにマシな人間になれたのだ。そして、まだまだ生理のある人生は続く。

これ以上、生理も、自分のことも嫌いになりたくない。

血を垂れ流しながら、毎月やってくる生理を乗り越えてきた私たち。そしてその前の1週間は、1カ月のご褒美として、食べたいものを好きに食べていい最高の1週間にしたらいいんじゃないか。そう考えるようにした。

もちろん頭痛や外見的なメタモルフォーゼもなるべく少なく、健やかに暮らせるに越したことはない。たまには白米を玄米に、白糖をハチミツに、スナックをフルーツやナッツに置き換えて、ストレスにならない程度にできる範囲で、「体にいい」とされているあれこれも取り入れている。

ありがとう、インターネット。ありがとう、情報を発信してくれる健康意識の高いみんな。

10歳から付き合いのある生理だ。私たちも、そんじょそこらの浅い関係ではない。だてにPMSの回数も体験してないので、食べまくるにしても限界の量や体調の変化も、そこそこ把握できている。

それから、生理が来たら途端に食欲が少なくなったり、便秘だったのが一変して下痢になり、結果プラマイゼロになるターンもたまにある。そういうツンデレ的なかわいい一面もあるじゃないか。諸々の症状も、年齢とともに丸くなってきた感も、少しはかわいい。

生理が大好き!と思えることは一生なさそうだが、しょうがない……あと10年くらい、うまく付き合っていくか。これからもよろしくな、やっこさん。という感じだ。

でも、お気に入りのシーツに漏れるのだけはマジでやめてね!!

おしまい

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