Femtech(フェムテック)はご存じでしょうか?

フェムテックは女性の体、健康関連のテクノロジーを使ったイノベーションを指します。

CBInsightsの調査によると、2014年から2017年でフェムテック関連のスタートアップはすでに10億ドルを超える投資を集めているそうです[1]

私は現在フランス在住で、最近までスタートアップ界隈で仕事をしていました。フランスはイノベーションを生み出すスタートアップ企業の支援に力を入れ始めて早数年。

Station Fのような世界的にも有名になったインキュベーション施設や、政府主導で「French Tech」と呼ばれるエコシステムも生まれ、テック系のスタートアップを後押しするシステムも整い、世界のイベントに国をあげてブースを出すなど勢いがあります。


[1] The Femtech Market Map: 45+ Startups Focused On Women’s Healthcare & Sexual Wellness

そんな中、「MenstruTech(マンストルテック)」という言葉を見つけました。

フランス語の生理を意味するmenstruationとtechnologyを組み合わせた造語です。色んな「〜テック」を調べてきましたが、私もこの言葉は知らなかった!

この言葉は、フランスの大手新聞社であるル・フィガロでテック関連を専門としている女性ジャーナリスト、Lucie Ronfaut (リュシー・ロンフォー)さんが編み出した言葉です。

マンストルテックという言葉を作ったきっかけ、なぜフェムテックではダメなのか、フランスの社会で生理とはどう見られているのか。Lucieさんに話を聞きました。

MenstruTech(生理テック)とは?

MenstruTechは、2016年に私が作った造語です。その頃、同年代(25歳前後)の友人たちがだんだんと生理アプリを使い始めていました。

Lucie Ronfautさん(本人提供)

しかし私の専門であるテック業界ではこれらのアプリが話題になることはありませんでした。

そんな折、ドイツ発の生理アプリ「Clue」の代表 Ida Tin氏がフランスのイベントに来ることになり、彼女とサービスについての記事を書くことになったのです。

ところが生理にまつわるイノベーションを指す言葉がないことに気づき、そこで編み出したのが「MenstruTech」でした。

マンストルテックというのは、生理、月経にまつわるテック系イノベーションのことを指します。生理のカレンダーアプリが多いですが、月経、子宮にまつわるイノベーションをこのマンストルテックに含みます。

なぜフェムテック ではダメなのか?

Femtechは女性の体、健康に関するイノベーション全般のことで、そこには胸や会陰なども含まれ、生理系アプリもそこに含むことも可能です。

しかし、私はこの言葉をあまり好きではありません。物事を単純化してしまう側面を持っているからです。

「fem(フェム)」とは英語の「female」で、フランス語の女性を意味する「femme」という言葉も同じ語源です。

しかし「生理」というのはトランスジェンダーの「男性」にも起こることです。また逆に、生理とは無関係の女性だっているわけです。それにfemme(女性)という言葉にはどうしても「女性らしさ」などの余計なイメージも付随してくるので嫌でした。

そこでたどり着いたのが「menstruation」という生理、月経という医療用語でした。

女性という言葉は、偏見を含んだステレオタイプに凝り固まった女性像を思い浮かばせてしまいます。ところが生理という言葉であれば対象はあくまで生理がくる人、となるのでシンプルです。

フランスでもタブー視される生理

フランスでも生理はタブーの側面があります。私自身も自国だけど驚かされることはよくあります。「生理の話はちょっと…」と仕事の場で言われることがあります。

また、フランスで初めて吸収型サニタリーショーツを販売した「fempo」という会社を始めたメンバーの一人はカナダ人ですが、彼女はフランスでこのプロジェクトを立ち上げるときにとても苦労したそうです。

まるで女性の体というのは子どもを産むため、あるいはセクシーさを保つものであるかのような風潮はフランスでももちろんまだまだあります。

ポップカルチャーにおいても、男性の勃起などについてのギャグはたくさんあるのに、例えばタンポンを友だち同士で渡し合う場面が漫画やアニメにおもしろおかしく登場することなどありませんよね。

注目度が低かった生理と男性中心社会

そもそも生理とは世界的にずっと注目度が低いままでした。

Appleが健康アプリ「Health」を2014年に発表しました。健康に関するあらゆる情報を一括にまとめることができるハブのような機能を持つものでした。

大々的に発表をしたのはいいのですが、健康全般に関わるこのアプリ、生理に関するデータは全く扱えないものだったのです。1カ月に一度のペースで世界の半分の人たちの身に起きることなのに、です。

(その後Appleは、2019年のアップデートiOS13で生理周期を記録する機能をようやく追加しました)

これはいろんなことを意味していると思います。このようなアプリを開発するエンジニアの大半が男性であることにも原因がありそうです。

そんな中で生理にまつわる製品やサービスの開発はもっぱらそれを専門とした会社が行なっていました。たとえばアメリカ発の「Glow」や「Flo」、インドの「Maya」などです。

ようやく今はそのような状況が少し改善され、AppleやGoogleのアプリでもいつ生理が来るのかを知ることは可能になりました。また「FitBit」などのスマートウォッチでもそのような機能があります。

そもそも女性に関しての製品やサービスはまずは妊娠関連のものでスタートしました。というのも投資家たちはもちろん利益を考えます。

妊娠している女性、あるいは、妊娠をしたい女性というのはお金を払うことに躊躇しない層だと考えられているからです。

これから妊娠したい女性なら不妊治療をすでにしているかもしれませんし、すでに妊娠している人もあらゆる有料ツールを使ったり治療をしてきた人の可能性がある。

Glowも当初は妊娠したい人のためのアプリだったのです。

しかしそんな中、ドイツ初の生理カレンダーアプリ「Clue」がその傾向を変えました。Clueは、妊娠を目的としない人にも使ってもらえるツールとして開発されています。単純に自分の体のことが知りたいという理由で使いたい人もいるからです。

それまでは女性が自分の生理に興味を持つのは、あくまで妊娠をするから、というある種のセクシズムが社会に蔓延していたと言えます。

MenstruTechへの興味がフランスで高まった理由

2012年に、避妊ピルが原因で脳卒中を起こしたとして製薬会社と政府を訴えた女性がいました。

結局は不起訴処分となったのですが、ピルに関して一気に議論が高まりました。そしてそれをきっかけにフランスではもっと自然な避妊法へ、という傾向が高まっていきました[2]

もちろんいまだに最も多い避妊法はピル(36.5%)なのは変わりませんがその利用率は年々下がっているのです[3]

[2] フランスの公衆衛生機関(Santé publique France)が2917年9月に発表した避妊法に関する調査

[3] フランスの公衆衛生機関(Santé publique France)が2017年9月に発表した避妊法に関する調査(Baromètre santé 2016 Contraception)によると、ピルはいまだに最も多い避妊法(36.5%)ではありながら、45%だった2010年より大きく下がってきていることがわかります。
逆に上がってきているのがコンドーム(10.8%から15.5%)、IUD(18.7%から25.6%)、インプラント(2.4%から4.3%)です。

フランスでMenstruTechが注目され始めた理由のひとつとして、このような議論が高まる中で、自分の体に関することをきちんと理解したいと思う人が増えたことがあると考えています。

自分の体の基礎的なことは知っているけれど、中学や高校でも生理についてはざっくりとしか教えてもらえません。生理というのは日常に関わることなのに、です。

また、フランスの生理用品のCMで使われるのはなぜか青い液体でした。

とにかく、フランスでも生理に関してみんながオープンに話ができるようになることが必要だったのです。

そしてようやく近年になり、生理がタブー化していることに対して疑問視する声が高まり、若い世代を中心に自分の体がどう機能しているのかを知りたい、という人が増えていったのです。

Clueなどのアプリを使えば、いつ排卵をするのかも分かります。私もそれまで自分がいつ排卵するかなど知りませんでした。

このようにテクノロジーを使うことで、自分の体についてより理解を深めることが可能になったと言えます。

フランスではこの流れの中で生理についての出版物も増えました。若い女の子向けの本もいくつかあります。

これらは全て、生理についてしっかりと話そうという社会的な意識が高まった結果です。

私生活と利用されるデータ

これらのアプリが増えたのは、自分たちの体についての関心が高まったからですが、一方で、アプリを通じて女性の体のデータが商業的な目的で利用されてしまうといったネガティブな点もあります。

ひとつ目は企業のマーケティングの一環として利用されるパターンです。

2016年に、ニューヨークタイムズの記事に、このようなアプリを使って妊娠して流産してしまった女性の話がありました。

彼女はアプリを利用し、最終的に妊娠。そしてそのことをアプリ内のオプションを通じて登録したのです。

その後、実は流産しそれについても伝えてはいたのですが、アプリ会社が妊娠成功という情報を営業パートナーの会社に流していたため、そこから出産祝いキットを送ってしまったのです。

どんなアプリもフェイスブックなどで情報が使われてしまうわけですが、生理のデータというのはとてもプライベートでデリケートな情報です。

妊娠しようとしている場合はセックスをいつしたかというデータまであるわけです。ですから大変難しい問題があるのは否めません。

そしてもうひとつ、これらのアプリのデータは医療リサーチにも利用されます。

ここで気をつけるべき点はこれらのアプリのユーザーが必ずしも全世界の女性を表しているわけではないということです。

利用者層は、25歳から35歳、そしてほぼアメリカやヨーロッパなどの先進国の女性に限られています。

全世界の女性の状況を反映しているわけではなく、ごく一部の人々なのです。

だからこれらのデータをもとに、たとえば新たな規範や標準値を作り出してしまうというのは危険ですし、間違いです。新しいテクノロジーを使ったイノベーションにはこのような問題があることも知っておくべきです。

フランス発のMenstruTechは?

フランス発の生理系アプリはまだありません。フランスではGlowやFlo、Eveなどアメリカ発のアプリか、ドイツ発のClueが主流です。

フランスでなかなか開発が進まないのはあまり市場が大きくないというのが理由かもしれません。また、スタートアップ業界が男性中心だというのも関係がありそうです。

フランスはセックスに対してとてもオープンというイメージがありますが、それとは裏腹に、実はセックステックというのはなかなか発展しづらいのが事実です。

ファンドレイジングができずに失敗したプロジェクトも知っていますし、アメリカに比べてあまり投資がなされないという背景があると思います。

アプリ以外でフランス発の生理に関するサービスで面白いところとしては以下のものがあります。

PliM:廃棄物ゼロというコンセプトの会社で、100%フランス製の布ナプキンなど、ビオでエコフレンドリーな商品の通販。

My Little Paris Gina:My Little Parisが始めた新サービス。100%ビオのナプキンとタンポンのボックスを毎月配送するサービス。

Cyclique:生理に関するコラボレーションプラットフォーム。Clean your cupという名で、カップを洗える場所が整備されているトイレの位置を表示させるマップを開発。カップフレンドリーな場所にはステッカーが貼ってある。

その他:オープンソースのものも出てきている。また、昔ながらの方法でエクセルや手帳に生理周期を書き込む方法に戻るという人たちも。

マンストルテックの再評価フェーズ

今、フランスではこのマンストルテックに対して第二のフェーズに入った気がしています。

最初のフェーズは2013年から2018年でこのようなアプリがあることで自分の体について理解が深まると喜ばれました。

そして今、これらのアプリの再評価のフェーズに入ったと思います。例えば機密情報の扱い方だとか、情報セキュリティなどの点が問題となっています。

また、voxに「Period-tracking apps like Clue and Glow are not for womenーClue やGlowのような生理トラッキングアプリは女性向けではない」という、マンストルテックに関して批判的な興味深い記事があります。
Period-tracking apps are not for women

ここで問題視されているのは、まず自分の体が商業的なものに還元されてしまうという点。

また、このようなデータを取り扱うアプリは体のサイクルについて平均値を出すのですが、必ずしもそれに当てはまらないのが私たちの体だ、という点です。

結局のところ、生理系アプリは毎月必ず生理が来る人を対象にしていますが、そうではない人もいっぱいいるのが現実です。

病気で生理が不順になる人とか、あるいはあまりまだ話題になっていませんが、中絶をした直後のサイクルなどです。

そうするとアプリはそれらの出来事をうまく反映することはできません。その結果、象徴暴力のような側面も持ってしまうのです。

アルゴリズムがどのように動いているのかも本当はユーザー側には見えません。

自分の体に関するデータがブラックボックスの中に入れられてしまい、自分からは剥奪されてしまいます。ですからフェミニストの一部ではこれらのアプリに反対する人たちも出てきているのです。

今回、このインタビューをしてみて、驚きの事実がいっぱいありました。

性に関してオープンに感じるフランスですが、日本と同じく、生理がタブーであることや、生理に関するイノベーションが男性中心的な社会の中で実現することの難しさがあるということ。

また、マンストルテック(フェムテック)は世の女性に大きく貢献している一方、取得データの取り扱い方法などの問題が出てきているということも、ユーザーであればなおのこと忘れてはならない側面です。

そして、ピルの服用率が下がってきているという点。

そういえば周りで「もうピルやめよう」という子達がなんとなく増えていた気はしていましたが、ここまで減少の傾向として現れているとは思っていませんでした。

一方で増えてきているのがIUDやインプラント。自然な避妊法やなるべく体に負担がかからない避妊法への注目も高まっていますが、それだけではないかもしれません。

2015年から制度が変わり、医師だけではなく助産婦も避妊関連の処方ができるようになり、患者にIUDの装着ができるようになりました。

個人的なことですが、出産後の検診で産婦人科医にIUDを勧められました。産後女性の避妊方法として、医師がIUDを勧めていることも装着率を高めている原因なのかもしれません。

とはいえ、フランスではなんだかんだ言ってもピルは未だにメジャーな避妊法です。

「ピルの減少=ピルの否定」という訳ではなく、むしろ自分にあった避妊をしたいという意思がフランスでは高まってきているということなのかもしれません。

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