ボイストレーナーの遠藤舞さんは、かつてアイドルグループを卒業後、ソロアーティストとして活動していた経歴があります。
遠藤さんは、芸能界を引退する前に、ある仕事関係者から性被害に遭いました。その経験をSNSに投稿したところ、さまざまな反響がありました。
当時を振り返って思うこと。また、SNSで寄せられたコメントを受けて、遠藤さん自身が感じたことを綴ってもらいました。
(編集部注:本記事には、性暴力被害の実態を伝えるため被害の詳細について触れています。フラッシュバックなどの症状に不安がある方はご注意ください)
被害者に落ち度があった?投稿に寄せられた誹謗中傷
著名人の性加害問題について取り沙汰されている昨今。そのような話題が大きなメディアでも大々的に取り上げられるようになったのは、被害を受けた側がようやく勇気を振り絞って声を上げられる環境になってきたからなのだと思っていました。
しかし実際のところ、被害者に対する風当たりは今も強く、いわゆる「セカンドレイプ」と言われるものや、論点ずらしの誹謗中傷に相当な覚悟をもって立ち向かわなければならないことは、昔とそう変わらないのかもしれません。
「断らなかった女が悪い」「なぜ今さら言うのか?すぐに警察にかけこまなかったのか?」など被害者への非難の声が飛び交っています。
本当に被害者に落ち度があるのでしょうか?
私はそうは思いません。
もちろん注意深く警戒していれば、被害を防ぎやすいケースもあるでしょう。
しかしながら人間関係のパワーバランスや、本人の若さによる経験・知識不足により、思いもよらない状況で被害に遭ってしまうケースもかなり多いはずです。
女性の中にも「私だったらきっぱり断ってた」「隙を見せた女性側が悪い」と主張する声を見聞きします。
ですが相手が自分のキャリアに深く関与する圧倒的権力者だったら?肉体的な力の差を見せつけられたら?
実際の状況もわからないのに「自分だったらこうできた」と言うのは、少し想像力に欠けてるのではないかと思います。
以下、私の現役時代の性被害についてお話いたします。当時アイドルは卒業しておりましたが芸能事務所に所属している間に起きた出来事です。
タクシーに押し込まれ…信頼していた仕事関係者からの性被害
それまで仕事で何度も顔を合わせており、私に対するセクハラやモラハラもなく信頼しきっていた男性Xがいました(以下X)。
ある日「Xを招いて仕事の打ち上げをしよう」と男性スタッフAとBが会食の話を持ちかけてきました。AもBも仕事上で長い付き合いがあったため、私は特になにも疑わずその会に参加することに。
会食が進むにつれXの飲酒量が増えていき、店を出た後の帰り道には千鳥足に。A・Bはスタスタと駅方向に歩いて行ってしまい、仕方なく私がXを介抱しながら歩きました。
駅に着いた途端タクシーを拾ったA・Bから「遠藤さんはXさんと一緒にこのタクシーに乗って帰って!」と言われました。
もちろん「私は電車で一人で帰りたい」と申し出ましたが、押し込まれるような形で半ば強引にXと共にタクシーに乗せられました。
その後、車内でほぼ泥酔状態のXから「俺がお前をどれだけ好きだったか」などと言われ、太ももなど身体を数分間にわたり触られました。
こうやって文字に起こしてみると、大した被害に思えないかもしれません。
しかし当時の私の心境を思い出すと、完全なるビジネスの相手として信頼していた大人(既婚者)から下心を露わにされたこと、実際に身体を触られた気持ち悪さ、運転手がいるとはいえタクシーという密室である恐怖からパニック状態に陥りました。
すぐにタクシーを降り、泣きながら当時交際していた相手に電話をして、たった今あったことを伝えましたが「隙を見せたあなたが悪いよ」と逆に窘められてしまいました。
長年の付き合いがある人を信頼して一緒に食事を楽しむ(私はお酒が飲めないため)ことが「隙を見せる」ことになってしまうのでしょうか。
私は身体を許したつもりは全くありません。それでも権力のある人と一緒にタクシーに乗ることが「身体を触ってOK」の合図になってしまうのでしょうか。
完全なる味方だと思っていた当時の交際相手からも理解を得られなかったことから、性被害者の声って届かないんだと絶望しました。
Xと私を取り巻く環境のことを考えると、大ごとにすればするほど、どうしてもたくさんの人を巻き込み、迷惑をかけてしまう。
そう思った私は、Xと関わる仕事を断るために、当時の女性マネージャーにだけ「他言無用で」と添えて、その事実を伝えました。
とにかく、タクシー内での出来事を思い出すことも苦痛だし、触られた時の嫌な感触に蓋をしてしまいたい気持ちが大きく、仲の良い友達にも、その被害について話すことができませんでした。
「すぐ警察に行けばいい」「女を使った」心無い批判
先日、このエピソードをSNSで公開したところ、かなりの反響をいただきました。
寄り添ってくださる声に励まされた反面、驚いたことが2つありました。
1つ目は、自分も同じように性被害に遭ったという方々からの、上下関係や仕事上の権力の差など、さまざまな理由により声を上げられなかったというご意見がすごく多かったこと。私と同様にパートナーから怒られてしまい傷ついた経験がある方も数多くいらっしゃいました。
2つ目は、私の投稿に飛んでくる心無い批判の多さです。
「気持ちはわかるがそれでもやはりすぐに警察に駆け込むべきだった。それができなかった時点で今言う資格がない」
「女を使って仕事を取ってきたんだろう、その報い」
寄り添っているようで人の気持ちをいまいち理解していない投稿や、事実無根の妄想で名誉を傷つけてくる投稿までさまざまでした。
性被害に遭った方が加害者を法的に裁くために、「被害後にシャワーも浴びずできるだけ証拠を残した状態で警察に行った方が良い」という情報は女性なら知識として持っている方もいると思います。
しかし実際に被害に遭ってみると、あまりに精神的なダメージが大きく「〜べき」と言われる正しい行動が取れるほど、冷静でいられる人はそれほど多くないのではないでしょうか。
ビジネスの場で、性被害のリスクを背負わなければならないのは異常
性被害の危険因子となりうる行動は絶対にしないことを徹底すれば、性被害に遭う人はいなくなるかもしれません。
しかし、お世話になった仕事関係者との会食ですら、その危険因子となってしまうのならば、あらゆるビジネスの機会も同時に失うことになるでしょう。
自分の存在や事業について知ってもらい、なんらかのビジネスに繋げたいと思うのは、男性も女性も同じだと思います。
「性被害に遭う方にも原因がある」と被害者を責める人たちの言う理想的な行動をとって生きることになったら、いったいどれだけの制限を自分に課しながら生活しなければならないのか。そして、そのような世界が望ましいのでしょうか?
悲しいことに、危険な場所には近づかない、被害者となりうる側が徹底的に回避をする方法でしか、危険から身を守る手段がありません。身近な女の子たちに、そのように伝えるしかない現状です。
ただ私が経験したように、信頼している相手からの被害を避けて過ごすことはなかなか難しいのではないでしょうか。
性犯罪を断罪する世の中に
残念ながら現状は「声を上げた者が叩かれる」そんな異常な世の中です。
被害者に対して、「自分だったらこうしていた」「そんな格好して行くのが悪い」など、自分軸で考えて頭ごなしに批判するのではなく、その背景や人間関係を考えてあらゆる可能性に考慮した上で、被害者に寄り添う心を持ってほしいと思います。
性被害をゼロにすることは難しいのかもしれませんが、声を上げた人を支持して、応援する人が増えることで、性犯罪を断罪する気運が醸成されていけばいい。そういう思いもあり、私は過去の実体験を投稿しました。
普段ボイストレーナーとして、夢に向かって努力している女の子たちと接している立場から、私が日々感じていること。
「私と同じような“理不尽な被害”に遭う人が、これ以上増えませんように」
「性被害にあわないようにビクビクしなくても、全ての人が堂々と生きていける世の中に」
このことを切に願っています。
そして、これは私が身を置いている「芸能」の世界に限ったことではないと考えています。
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私のカラダは私のものに違いないのに、自分を大切する気持ちが、パートナーや誰が決めたのかわからない社会の声にかき消されてしまうことがあります。
ランドリーボックスでは、「〜らしさ」といった、世の中の当たり前に囚われずに、自分の人生とカラダの自己決定ができる社会を目指し、本特集をお届けします。
自らのカラダとココロをしっかりと自分の手で抱きしめられるように。
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