HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)(注)という概念を知らなかった10数年前、私は実家の九州から遠く離れた東京で出産し、育児を始めました。夫の実家は東京だったものの、電車で1時間半と離れており、義母に頼れる環境でもありませんでした。
頼れる人もほぼいない中、マンションの一室で小さな命とふたりきり。初めての子育てで「素敵なお母さん」になることはあきらめたものの「絶対にこの小さな命を守らなければならない!」責任感と緊張感で私はガチガチになっていました。
HSPは、基本的に真面目で責任感が強い人が多いと聞きます。それはHSPの大きな特徴のひとつである「深く考える」が影響していると私は感じています。
「もし母乳が足りなかったら…もし私が寝ている間にうつぶせ寝になっていたら…もし…」と想像力が膨らんで「私がしっかりしなくては、私の責任だ」と自分を追い込んでしまうのです。
さらに生まれたばかりの赤ちゃんは2時間おきに泣き、オッパイやおむつを催促するので、私はほぼ熟睡することができませんでした。
「神経が高ぶりやすい」のもHSPの特徴なのですが、赤ちゃんとの新たな生活にHSP本人は気が付かなくとも、神経はすでに高ぶっています。睡眠不足と神経の高ぶりは、思考を不安定な方向へ引きずり込んでしまうのです。
「ああ、私はなんでこんなことすらまともにできないのだろう。ほかのお母さんはみんなできているのに」ひとりぼっちの私の視点はなおさら、まっすぐに暗い方向へ向いてしまいました。
もし私と同じような場面に陥ったときは「また考えすぎのクセが出ているな」とHSPの特徴を思い出してみてください。ひとりで背負いすぎてしまっているのかもしれません。
まずは誰かと話して気持ちを「離す」。
夫や友人とたわいない話をすることはもちろん、私は孤独すぎて近所のスタバへ行き、相席になった知らない女性と1時間話し込んだこともあります。よっぽど人と話したかったんでしょうね。
今はコロナ禍でそれも難しいので、ZoomやClubhouseなどの新たな非接触型ツールを試してみるのもいいかもしれません。
それから、頼れるものはとにかく頼ること!
通院していた産婦人科に連絡をして「つらいこと」を伝え、一時的に気持ちを落ち着かせる薬を処方してもらったり、助産師さんや役所の相談窓口を紹介してもらいましょう。私の場合は、母乳に影響しない漢方薬を処方してもらい、睡眠薬を使って寝たらかなりスッキリしました。やっぱり睡眠は大事。
真面目なHSPは「人を頼る」ことに罪悪感を覚える人もいますが、育児はひとりでは無理です。どんどん人の手を借りて、気持ちを話して、今はそういう時期なのだと自分を甘やかしてください。
それでも罪悪感がある場合は、この経験を未来に活かすつもりで、今誰かに甘えてくださいね。将来、街で困っているお母さんを見かけたときに、共感力の高いHSPはサッとお手伝いしたくなりますから、そこで返せばいいのです。私はすっかり赤ちゃん大好きおせっかいおばさんになりました。
真面目なHSPママさん、私はあなたが本当に一生懸命その小さな命を守ろうとしていることを知っています。だからこそ、まずは赤ちゃんと一緒に寝て、頼れるものは全て頼っていいんですよ。
*漫画は個人的な経験をもとに制作しています。同じHSPでも感じ方には個人差があることをご了承ください。また、日常生活に支障が出るほどつらい場合は心療内科やカウンセリングの受診をおすすめします。
*注:どんな人であっても、その人の身体に“体質”があるように、心にも“気質”があります。HSPは、うつなどの心の病ではなく、気質です。もし「自分もそうかも」と思う人がいれば、HSPという“心の気質”を知ることで、環境への適応力が上がり、より生きやすく、より自分らしく過ごせるようになるのではと思います。(精神科医:鹿目将至)
著者プロフィール
おがたちえ
台湾とクルーズ船を愛するHSP漫画家。刺激追求型HSPゆえに、怯えつつも汚部屋掃除や事故物件などのルポ漫画も手掛ける。『フォアミセス』(秋田書店)にて『HSPの歩き方~ハッピー・センシティブ・パーソン!~』を連載中。著書に『繊細すぎて生きづらい~私はHSP漫画家~』(ぶんか社)、『なつかしい日本をさがし台湾』(ぶんか社)、『汚部屋掃除人が語る命の危ない部屋』(竹書房)などがある。
監修者プロフィール
鹿目将至
精神科医。1989年、福島県郡山市生まれ。日本医科大学卒業。現在、愛知県内の病院に勤務。『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ 』や『「もうもたない…」折れそうでも大丈夫』を出版。「気軽に生きる」をモットーに活動中。