昔から身体のことについてオープンだった
以前このコラムにも書かせていただきましたが、私は月経困難症があり、初潮を迎えたときからひどい腹痛に悩まされてきました。中学校時代、「あの痛み」がやってくると、授業中であろうがなんだろうが耐えることはできませんでした。額には脂汗がにじみ、鳥肌が立ち、ひどいときには痙攣のように震えることも。
周囲の女子達はよく「生理だとバレるのは恥ずかしい」と言って体調が悪くても隠していましたが、私は恥ずかしさに気をつかっている余裕なんてありませんでした。
私の異変に気づき、保健室まで連れて行ってくれるのが男子だとしても女子だとしても、私は感謝していました。
こんな理由で、中学校時代からすでに周りの男子たちに「生理痛がひどいんだよねー」と話していたのです。私の肌感覚では、みんなしっかりと話を聞いてくれたし、驚く人もからかう人もいませんでした。「大変だねー」と言ってくれた子が多かった記憶があります。
高校生になっても私の生理の症状は改善されることはありませんでした。ある日学校にいるときに腹痛で動けなくなってしまい、タクシーで病院に行ったことがありました。
同級生の女の子が何人か、そして男性の校長先生が私を抱えてタクシーまで運んでくれたのですが、男性教員に対しても「知られたくない」という気持ちは一切ありませんでした。
そんなわけで、昔は「生理を隠すなんてありえない」と思っていたのですが、大人になった今、思春期の女子が生理のことをオープンにしづらい気持ちも理解できます。
私の周りには、生理のことをからかう人がたまたまいなかっただけで、もし一言でも冷たい言葉を浴びていたらどうなっていたかわかりません。
ただ、生理を隠して生きることは私にとっては効率が悪すぎたのです。早く痛みを解消したいと思っているのに、羞恥心のために我慢するのは私には到底無理でした。そのため、自然と生理に限らず自分の体調のことをすぐ人に共有するようになっていました。
映画撮影時も男性の助けがあったから乗り越えられた
私は2021年7月16日(金)全国公開となる、品川ヒロシ監督映画『リスタート』の主演を担うことに。撮影は2019年の夏に行われました。
当時28歳の私は初めて映画の仕事を任され、期待よりも不安が勝っていました。変に完璧主義なところもあって、台本やダンス(映画にはダンスシーンもあります)を完璧に覚えないと気が済まず、睡眠時間を削って全ての集中力を注ぎました。
映画のほかにも自分のバンドでの仕事があり、映画撮影時の私はいっぱいいっぱいになっていたと思います。それに加えて夏恒例の体調不良が重なって私はすっかり打ちのめされた状態に。
新しいことに挑戦することへの不安と、体調が悪く思い通りにいかない毎日に、すっかり弱ってしまった私は、バンドメンバーの川口と打合せをしている最中に突然泣き出してしまったのです。
たまたま練習スタジオにいたこともあり、周りの目を気にせず、28歳とは思えないほど大声でワンワン泣きましたそれを見て川口は驚くでもなく「まー泣いとけ泣いとけ」と言い、私を放っておいてくれました。ひと通り泣きわめいて落ち着きを取り戻した私に彼は、「何が一番つらい?」と聞いてくれました。
- 役を全うできるのか不安
- セリフが覚えられない
- ダンスが上手く踊れない自分への不満・不安
- 体調、とくに喉の調子が悪くストレスを感じている
- スケジュールが頭に入らない
私は川口に次々と不安な気持ちを吐き出しました。すると川口は冷静に「1つずつルールを作りましょう」と言って、小学生の時間割のようなものを作ってくれたのです。
「○~○時でダンス練習したら、○時以降は休息の時間」
「この日はお休み、絶対に台本開いちゃダメ。できないなら取り上げる」
このように、やることと、やってはいけないことを書き出し、細かくスケジューリングしてくれたのです。これだけ読むと、私がものすごくわがままで甘ったれた人に思えるかもしれません。しかし、周りに気を遣えないほど、あのときの私は体調面も精神面も追い詰められていました。
そして気づいたのです。自分を苦しめていたのは、「手を抜けない」自分なのだと。
今も周りの人に体調を共有している
24歳のときに、毎月くる激痛に耐えられなくなって「ミレーナ」を使用することに。それから私の生理痛はものすごく軽減され、今では生理で悩むことがほとんどなくなりました。
近しい存在であるバンドメンバーやマネージャーには、昔から私が月経困難症であることも話していて、ミレーナ使用の話も事細かに説明しています。現在は生理はないものの、たまに抑うつ症状が戻ってきてしまうことなど、常に情報をアップデートして共有するようにしていました。
これは学生時代と同じ理由で、周囲に共有しないとバンド活動や仕事に支障が出るからです。特に私の場合は声を使う仕事ということもあり、体調と精神面とパフォーマンスがイコールで結ばれています。
映画の撮影に入ってからも、市販の痛み止めを毎日欠かさず飲んでいたのですが、持っていくのを忘れてしまった日がありました。マネージャーには体調が悪いことを共有していたので、すぐに薬を買ってきてもらって乗り切ることができました。
「頭痛薬をお願いします」とだけ言ったのに、喉の調子が悪いことも知っていてくれたので温かい紅茶も買ってきてくれました。
私のマネージャーは男性ですが、やはり体調のことは一切遠慮することなく伝えています。
私の仕事において一番多くの時間を過ごすバンドメンバーやスタッフが男性であることで困ったことは、今まで一度もありません。むしろ身体のしくみが違うからこそ、しっかり話しておけば、一緒に問題を解決しようと動いてくれることが多かった気がします。
女性同士でもお互いを理解するのは難しい
体調不良時のコミュニケーションという点では、自分でも生理を経験している女性との方が難しい、と感じることがあります。
初潮を迎えてのたうち回っている私を見て、母は「おおげさ!こんなもんよ」と言っていました(後に母からものすごく謝られました。母はずっと後悔しているようです)。
ほかにも、生理の痛みがあまりない女性に「生理で倒れたことがあるなんて大げさじゃない?」と言われたことがあります。私がふざけて話を盛ったと思われたのです。もちろん彼女に悪気はないのですが、生理による腹痛を経験したことがないため、説明しても最後まで理解できないようでした。逆に生理痛がひどい、という同志でも「私の方が大変、だけど頑張ってるの」というマウント合戦になってしまうことがあり、これはこれで大変です。
最近はPMSという言葉も一般的になり、だんだん生理のことをオープンにできるいい風潮になってきました。しかし、身近な人ほど生理や身体のことは言いづらいという人もまだまだ多いようです。
私はやっぱり、我慢して大変なことになるくらいなら、周りの人に先に話しておく方がいいと思っています。恥ずかしさや気後れよりも、スムーズに生活をすることや痛みと付き合っていくことを優先したいのです。そうでないと生きてこれなかったとさえ思うのですが、大げさでしょうか?
生理やカラダのことをオープンにしたほうが、自分のためにも周囲のためにもいい。そんなケースもあるのだということを、知ってもらえたらと思います。
エミリ主演映画『リスタート』7/16(金)全国公開
エミリ初挑戦となった映画出演で、自然体の芝居と圧巻の歌声を響かせている。監督は品川ヒロシ。自身初となる、女性を主人公に据え、北海道・下川町を舞台に描いた本作は、クラウドファンディングで目標金額を大幅に上回り、多数の支援者による圧倒的な熱量で制作された。
■タイトル: 「リスタート」(https://restart.official-movie.com/)
■監督・脚本:品川ヒロシ
■音楽: HONEBONE
■キャスト
EMILY (HONEBONE) SWAY(劇団EXILE)ほか