日本にも、ナプキンを手に入れられない女の子、女性たちがいる。
消費税が8%から10%に増税された2019年10月、生理用品は軽減税率の対象にならなかった。「生理用品を軽減税率の対象に」という声が上がり、今も署名活動が行われている。
生理ナプキンの無償配布や、学校やオフィスでの設置を求める声もあり、実際に海外では国が主導して無償配布を実施する動きが進んでいる。
しかし日本ではまだ、生理用品を十分に手に入れることができない「生理の貧困」の認知が低いままで、対策が追いついていないように思える。
今回は実際に、生理の際ナプキンを手に入れられなかった経験のある2人に話を聞いた。
小4〜中3までナプキンが十分に手に入らなかった(ぐうたらこさんの場合)
ブロガーのぐうたらこさんは、小学4年生で初潮を迎えてから、中学を卒業するまでの6年間、ナプキンを十分に手に入れることができなかった。
そこにはぐうたらこさんが育った家庭環境が影響している。祖父母の家に母親と住んでいたのだが、母親は恋人の家で過ごすことが多く、1~2週間に1度しか家に帰ってこなかった。
「大人になって振り返ると、いわゆるネグレクトのような状態だったのだと気づきました」
祖父母がいたため食事など最低限のものに困ることはなかったが、思春期を迎えた女の子に必要な下着やナプキンなどが供給してもらえなかった。
小学生ながら胸の発育が早く、明らかにスポーツブラが必要な状態でも家族は何もしてくれず、それを見かねた友人のお母さんがぐうたらこさんを下着屋に連れて行き、スポーツブラを買ってくれたことがあるそうだ。
ティッシュでしのいだ。経血の染みを「汚い」と怒られた
ナプキンはまったくなかったわけではない。たまに帰ってくる母親が買って置いていくこともあった。しかし、供給が足りず、毎回使い切ってしまう。そのため、昼はティッシュやキッチンペーパーで代用し、夜は昼用のナプキンを使う。多いときは昼用のナプキンを2枚重ね、寝るときは布団にバスタオルを敷いた。
ティッシュで過ごす昼間は、経血漏れとの闘いだった。黒いスカートを履き、ショーツの上にさらにスパッツを履く。ショーツにティッシュをはさみ、さらにショーツとスパッツの間にもティッシュをはさむ。また、椅子に座るときはスカートに染みないよう、スカートをまくり、スパッツが椅子に当たるように座った。
また友人の家に行くときは、床を経血で汚さないために、正座し、かかとを立て、かかとの上におしりを置いていた。
キッチンぺーパーは触感が悪く、ティッシュも吸水性があまりないため、じかに経血を感じる。また、かゆみもともなったという。
学校ではなんとかやり過ごせても、帰り道に経血が染みてしまう。それを見た祖母や親族に、「汚い」と怒られてしまうこともあったとぐうたらこさんは当時を振り返る。
「当時はその状況が当たり前で、特別だと思っていませんでした。支援を受けるという概念がそもそもないなか、とにかくどうやり切るかに必死でした」
学校の保健室も頼れなかった
お小遣いもなく、また田舎だったためお金があったとしても車がなければ買いにいけない。
思春期で、家庭の事情を学校の先生や友人に話すことにはためらいがあった。友人からナプキンを借りることはあっても、後日返す必要があり、事情を説明するのもはばかられ、なかなか頼ることができなかった。

養護教諭にも同じ理由で頼れなかった。保健室でも、支給してもらった後日に返却するシステムのところも多いそうだ。返却するシステムのケースでは、生理用品を忘れてしまった、あるいは急に生理がきてしまった場合が前提となっているため、手に入れられない子は想定されていない。
高校に進学すると、母親の再婚を機に、都市部へと引っ越したぐうたらこさん。そのころからはバイトを始め、生理用品を購入できるお店が近くにあったため、ナプキンで困ることはなかったという。
せめて軽減税率対象に。生理用品は『健康で文化的な最低限度の生活のために必要なもの』
「今の貧困家庭の子どもたちはツギハギの服を着ているということはあまりなく、見た目ではわかりにくいかもしれない。表向きには貧困に見えない場合、周囲から気づかれにくいのではないでしょうか」
ぐうたらこさんは自身の経験から、こども食堂や教育機関で生理用品を提供できるようになれば、と考えているという。
「貧困家庭に食材を届けるフードバンクの方に、生理用品を届けることができないか聞いてみたことがあります。しかし、聞くと需要はたしかにあるのですが、必要性が可視化されていないそうです。 個別に相談を受ける機会を設けて、ゆっくり話を聞くと、そこではじめて『生理用品が不足している』事実が聞き出せるのだとか。地域や学校で性教育を進めつつ、学校の保健師さんと連携できたら、実現もできるのかもしれません」
生理用品が軽減税率でないことに対して、ぐうたらこさんは、「最初は、1回購入ごとに数円から数十円の違いだから、そこまで気にしていませんでした。しかし貧困家庭に育ち生理用品を十分に手に入れられない女の子から見たら増税による負担は大きいと思います。国が、生理用品を軽減税率の対象とすることによって、『文化的な最低限度の生活のために必要なもの』という認識を伝えることになるのではないかと思います」

ナプキンは1回の購入で数百円の出費だが、それも閉経まで幾度も積み重ねることを考えるとかなりの額になる。経済的に自立していない学生やナプキンを手に入れられない子どもたちのために、教育機関にナプキンが設置される必要もあるだろう。
母親の家出で、小学6年生のときにナプキンがなくて困った(ひとみさんの場合)
またぐうたらこさんのように長い期間ではなくても、ナプキンが手に入れられない経験をした女性がいる。
現在22歳の大学生であるひとみさん(仮名)は、小学6年生のとき、家にナプキンがなく困った経験がある。原因は突然の母の家出だった。母がいつ帰って来るのかもわからないなか、生理が来てしまったのだ。家にいるのは父親と弟2人だけ。
「父に生理のことをいうのははばかられ、お小遣いも持っていなかったので、自分で買うこともできませんでした」
授業で保健室にナプキンがあることは知っていたが、当時は元気で問題のない子を装うのに必死だったというひとみさん。
「誰かに助けてほしい気持ちはあったけれど、SOSを出せずにいました」
困っていると声をあげたいけれど、事情をどこまで言えばいいのか、そもそも言うべきなのか、言わないほうが今のままでいられるのかという葛藤があり、保健室にも頼れなかった。何人かの友達に、こっそりとお願いし、かき集めて生理の期間をしのいだという。
思春期の子どもたちは、複雑な家庭事情を周囲に話すことができず、頼るのが困難なケースも少なくない。
「アメニティのような感じで、困ったときに、気軽に利用できるものがあれば救われる子たちは多いと思います」
思春期で「複雑な家庭環境を隠したい」という子が多く、目に見えづらい
生理用品を手に入れられないのは、必ずしも貧困だけが原因ではない。今回の取材でわかったことは、ぐうたらこさんやひとみさんのように、ネグレクトや親の家出など、複雑な家庭環境が絡んでいることもあるということだ。
特に思春期の女の子たちは父親や兄弟のような男性の家族に言いづらく、経済的にも自立していないため、問題をひとりで抱え込んでしまう可能性がある。
友達に頼ることも、1回や2回はできても、毎月となるとそれも当然難しいだろう。保健室での対応が、返却式かどうかは学校によって異なるが、返せない子も想定した、個別の対応が求められるのではないだろうか。
センシティブな問題だからこそ、SOSが出されず、隠したいと感じている人もいるため、目に見えにくい問題だ。今の日本でナプキンが手に入らない子がいるという現実を、想像したことがある人はどれほどいるだろう。生理の貧困の当事者は、実は身近に存在しているかもしれない。
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