イラスト=Laundry Box

人工妊娠中絶はなかなかオープンに語られることが少ない話題ですが、自分の身体に関する自己決定権を持つ女性にとって重要な選択肢。当事者の意志や健康を尊重するために向き合うテーマです。

2021年12月22日に、イギリスの製薬会社が「経口中絶薬」を日本国内での使用を認めるよう、厚生労働省に申請しました。

中絶の際の選択肢が増える喜ばしいニュースです。しかし同時に、諸外国では740円ほどの価格に対し、日本産婦人科医会の発言によると10万円という高価格設定の考えが報じられ、承認後の価格設定も注目を集めています。

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今回は中絶という選択をした女性に寄り添い、必要なケアを提供する海外のフェムテックをご紹介します。

リプロダクティブ・ライツ

現在ではフェムテックやさまざまなツールの発達によって、生物学的女性が生理や妊娠、避妊などの場面に際して、自分自身の身体をコントロールする選択肢が増えてきています。しかし、それでも望まない妊娠を完全にゼロにすることは難しいのが現状です。

女性は「(子どもを)産む性」としての役割を社会に期待されながらも、中絶となると女性側が心身ともに大きな負担を強いられます。

中絶の決断に至る事情は人によってさまざまです。

精神的負担だけでなく、日本では身体に大きな負担のかかる手術、また手術に関わる金銭的な負担など、中絶の決断によって女性たちが負わされているものは多数あります。

このような多くの負担を軽減させるためにも、安全で思いやりあるケアが必要です。

身体の自己決定権を持つことは、妊娠したい人・したくない人、あるいは無性愛の人も自分らしく健康にすごす権利を有するという「生殖の権利(リプロダクティブ・ライツ)」として、世界的に合意された人権の概念です。これは歴史の中で女性たちが声を上げて勝ちとった権利でもあります。

望まない妊娠をした人や中絶の決断をした人に対する「自業自得」や「自己責任」といったスティグマ(汚名の烙印)の見方をなくし、適切なケアを受けられるようにすることも「リプロダクティブ・ライツ」に含まれます。

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オンラインで女性を助けるフェムテック

自宅にいたまま中絶薬の処方を受けられるHeyJane

アメリカのHeyJaneは、24時間いつでも中絶についてオンラインチャットで医療従事者に相談でき、妊娠中絶薬の処方を受けられるサービスです。

このスタートアップは、アメリカで一生のうちに中絶を希望する女性が4人に1人もいる需要の多さや、 人工妊娠中絶を禁止する州の存在に危機意識を持った女性によって、立ち上げられました。

自宅にいながら迅速かつ手頃な価格で中絶ケアにアクセスできるサービスとして、選択肢のひとつとなっています。

病院へ行くことも勇気が必要で、精神的・経済的負担の大きい中絶の負担軽減をサポートしています。

画像:HeyJaneサイト

気軽に相談できる「HowToUse AbortionPill」のAIアシスタント「Ally」

安全な人工妊娠中絶、避妊、性と生殖の健康に関する情報やカウンセリングサービスを提供するプラットフォーム「Women First Digital」が運営するHowToUseAbortionPill.orgでは、世界初の中絶相談に特化したAIアシスタント「Ally」を提供しています。

「Ally」は、世界中で普及しているメッセージアプリ「WhatsApp」から利用できるようになっています。

HowToUseAbortionPill.orgは、42カ国、26の言語で医療情報を提供しており、従来のヘルスケアシステムから外れていたり、地理的、文化的な障壁で抑圧されている女性たちに新しいアプローチで情報を届けようとしています。

世界中の女性が望む権利

安全な中絶の権利は、あらゆる女性に必要な権利です。

世界共通で達成に向けて動いているSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)は、人権に根ざした「誰も置き去りにしない」概念で、すべての国が普遍的に取り組んでいくものとされています。

そんなSDGsの5番目の目標「ジェンダー平等を実現しよう」にも女性の健康と権利が明記されています。

ターゲット5.6

国際人口・開発会議(ICPD)の行動計画及び北京行動綱領、並びにこれらの検証会議の成果文書に従い、性と生殖に関する健康及び権利への普遍的アクセスを確保する。

指標5.6.1 

性的関係、避妊、リプロダクティブ・ヘルスケアについて、自分で意思決定を行うことのできる15歳~49歳の女性の割合

指標5.6.2

15歳以上の女性及び男性に対し、セクシュアル/リプロダクティブ・ヘルスケア、情報、教育を保障する法律や規定を有する国の数

総務省 持続可能な開発目標(SDGs)指標仮訳より

HeyJaneの紹介でも触れたとおり、アメリカは先進国でありながら、州によって人工妊娠中絶を制限する法律の存在が世界的に注目されています。現在はミシシッピ州の「中絶制限法」をめぐる議論が白熱しています。

中絶を制限する州に住んでいる場合、中絶をしたい人は州を移動してクリニックで治療を受けるか、オンラインでの中絶薬処方が可能な州に行かなければならないのです。

新法の影響で、アメリカではオンライン中絶薬処方を支援する非営利団体やスタートアップが増えており、中絶にまつわるタブーをなくし、身体の自己決定権を主張するソーシャルメディア上の社会運動 #ShoutYourAbortion も立ち上がり、議論が活発になっています。

一方で、フランスでは中絶数を減らすため、若年層を対象に避妊薬の無料化を発表しました。そして、冒頭でも述べたように、日本でも女性の身体に負担の少ない「中絶薬」が承認申請中です。

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女性の健康と権利は普遍的に重要な問題です。国を超えた課題であるからこそ、すでにアフターピルや中絶薬という選択肢を認めていた外国に対し大きく遅れをとっていた日本が議論を見直し、承認に向けて動いているのは喜ばしいことです。

今回ご紹介したフェムテックのように、テクノロジーやオンライン診察の発達で世界的に中絶ケアは良い方向に進んでいます。

日本にはまだこの選択肢はありませんが、中絶をタブー視せず、適切な中絶ケアの必要性について考え、語り続けていくのは大切なことです。

フェムテックとは?

Female(女性)× Technology(テクノロジー)をかけ合わせた造語で、生物学的女性の健康課題をテクノロジーで解決するヘルスケアのジャンルです。

「生理」「更年期」「婦人科系疾患」「不妊・妊よう性」「出産・育児」「セクシャルウェルネス」などのカテゴリがあり、それぞれの問題をタブー視せず、前向きに解決するためのサービスやアイテムが数多くあります。フェムテックの市場規模は、2025年には5兆円規模に成長するといわれています。

グローバル有力市場調査会社Market Research Future調べ

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