大手アパレルブランドや、フェムケアのスタートアップなど吸水ショーツ市場への参入が相次ぐなか、2021年秋、ドン・キホーテのプライベートブランド「情熱価格」より、吸水タイプの「ウルトラ快適 マルチガード サニタリーショーツ」が発売された。

同商品の企画・開発を担当した古川みな海さんに、開発の背景や、発売後の反響などを聞いた。

株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス PB事業戦略本部の古川みな海さん。女性向けインナーやソックス、キッズ向けアパレル商品の企画・開発を担当。

深夜営業を強みに、吸水ショーツを発売

ー ドン・キホーテがオリジナルブランドで吸水ショーツを発売された経緯について教えてください。

もともとはPB商品で通常のサニタリーショーツを作ろうと考えていました。昨今「吸水ショーツ」がトレンドでもあったため、これ1枚で使ったり、他のアイテムと併用したりできる吸水ショーツの開発を進めることになったんです。フェムテックが話題になっていたことも理由のひとつです。

他のアパレルブランドと異なる点として、ドン・キホーテは深夜帯も営業しており、下着やソックスが、アパレル商品の売上の多くを占めています。夜に急を要するアイテムを購入される方が多くいらっしゃることから、吸水ショーツは相性が良いと考えました。

深夜帯にあいている店といえば、だいたいドン・キホーテかコンビニの2択です。コンビニの場合はサニタリーショーツは1種類しか置いていない店舗が多いので、アイテム数の多さから、ドン・キホーテを選んでいただき、このアイテムにたどり着いてもらえたらいいなと思います。

内もも部分に漏れにくい工夫

ー 開発にはどれくらい時間がかかりましたか?

1年ほどかかりました。吸水ショーツの機能面で商標を取られているメーカーさんもありますので、商品化できる仕様を確認することに時間がかかりました。現在は当社の仕様において、模倣品が出ないように特許出願中です。

縫製工場でも吸水ショーツは開発段階のところが多かったため、複数の工場にサンプルをあげていただき、1番良かったところにパートナーとして依頼することにしました。

ー 商品でこだわった点はどんなところですか?

私たち、働く女性の多くが気になるのはやっぱり「漏れ」の不安だと思います。長い会議でなかなかトイレに行けないとか、接客業の方も仕事を抜け出すタイミングが難しく「漏れてない?」「大丈夫?」と心配ですよね。ボクサータイプにして、内腿のところにも吸水・防水の布をつけてあげることで、「漏れ」への不安を軽減しました。

これ1枚だと不安な方もいらっしゃると思いますし、ナプキンとも併用もできる方が導入しやすいのではないかと考え、ナプキンの羽根が折り込める仕様にしました。

期間中は「お腹が圧迫されるとキツイ」という声もあったため、お腹部分はゴムではなく締め付けが少ない伸縮性のある布を使用しています。背中部分はフィット感があり、お腹はラク、かつ形状がボクサータイプなので安心感はあります。

防水布の“カサカサ音”が気になるという声もあったので、それを抑えるために、布の質感にもこだわりました。

店舗の女性スタッフの声も、商品に反映

ー 開発にあたり、生理のある人の声をどのように集めたんですか?

企画開発や店舗スタッフなど、社内の女性スタッフを対象にアンケートを実施しました。サニタリーアイテムに何を求めているのか、どんなことを解決したいかなど。私はもともと売り場のスタッフとして4年間働いていました。そのときのツテも使って、アンケートに協力してくれる人を集めて、できるだけ多くの声を吸い上げました。

ー どんなお悩みが寄せられましたか?

多かったのは、「職場に男性スタッフが多いので、トイレに行きたいと言いづらい」という声でした。店舗では基本的に立ちっぱなしで、店内が混んでくると、とくにレジのスタッフはなかなか抜けづらいと思います。開発本部も、男性が多いと長いミーティングが続いても「休憩5分でいいよね」となりがちです(苦笑)。タンポンとナプキンを併用するなど、みなさん色々工夫されていますが、選択肢は多い方がいいと思っています。

ー 従業員が自ら欲しくなるようなアイテムを目指したんですね。

25mlの水分を吸収する設計ですが、漏れの不安を軽減するには、ボクサータイプの方が安心感があります。サニタリーショーツの上にスパッツやガードルを重ね履きされる方もいますが、これなら重ね着しなくても安心感があると思います。

競合他社に負けない価格設定

ー 何より価格の安さにもこだわりがあると感じました。ボクサータイプとしては最安値ではないでしょうか。

ドン・キホーテのPBブランド「情熱価格」は、お買い得感を売りにしているため、どこにも負けない価格ということで1419円(税込)に設定しました。

ー 情熱価格というブランド名を掲げているだけのことはありますね。

他社さんから、とても安い価格で発売されて話題になったタイミングが、ちょうど弊社の発売の直前でした。他社さんよりも下回る価格で販売したく、この価格になりました。

情熱価格は減価率やコストよりも、競合他社と比較してもなお「安い」ことにこだわっているブランドです。「このクオリティでこの価格」というのを重視しています。吸水ショーツを初めて体験するきっかけになって欲しいということで、1419円(税込)という価格になりました。

ー 利用シーンが限られる商品ですが、社内で懸念の声などはなかったですか?

企画当時は、店長や、マーチャンダイザーに男性がほとんどだったこともあり、吸水ショーツというアイテムそのものを理解してもらうことに苦戦しました。

女性だと「吸水ショーツ話題になってるよね。気になってたんだよね」というような反応になるのですが、男性視点ではなかなか需要を捉えづらいアイテムだと思います。吸水ショーツとサニタリーショーツの違いすらもわからない人が多い。まずはフェムテックとは何か?吸水ショーツとは何か?それを理解してもらう必要がありました。

情熱価格の綿100%のショーツが8枚組で1098円(税込)という破格なので「この価格のショーツが売れるの?」と懸念もありました。ですが他社では1枚5000円前後でも売れているアイテムであることなどを伝えて説得しました。

ー 発売後のお客様の反響はいかがですか?

「今まで手が出なかったけど、安かったから試しに買ってみた」という声が1番多いですね。印象的だったのは、ヨガに通っているというお客様から「期間中はヨガを諦めていたけれど、このショーツに出会って試してみたら大丈夫だったから、これからは期間を気にせずヨガに行けます」というお声でした。

開発時には主に仕事でのシーンを想定していたので、意外でしたがスポーツシーンにも役立っていると知って嬉しかったです。

商品の売上を左右する「POPライター」の存在

ー 価格を安く設定したぶん、多く販売する必要があると思いますが、販売促進の施策において何か工夫していることはありますか?

当社の場合、店舗での露出が大きく売上に影響するので、現場のみなさんに広めてもらうような取り組みをしています。女性の店舗スタッフに「ぜひ履いてみて」と配布し、「履いてみた感想をPOPに書いてみてください」と呼びかけています。

ー POPに書く内容は、店舗スタッフが決めているんですか?

価格などを表記するPOPは、共通のものを本部が用意しますが、それ以外のPOPは店舗スタッフの判断に委ねています。ドン・キホーテではPOP書きを専門にしている“POPライター”が各店舗に1人ずついるんです。店内のPOPは彼らが店舗の事務所で手書きで作っています。

売り場担当がセールスポイントをPOPライターさんに伝えて、それを手書きのPOPに反映します。なかには「これはぜひ勧めたい!」という熱意から自分で書く担当者もいます。そういう熱意はお客様にも伝わりやすく確実に販売につながります。売り場で目立つように、こうした取り組みをコツコツ重ねています。

お客様からの「ダメ出し」歓迎の独自施策とは?

ドン・キホーテ公式サイト「ダメ出しの殿堂」より

ー 独自の取り組みといえば、公式サイトでお客様からの「ダメ出し」を募っているのが面白いなと思いました。

昨年、PB(プライベートブランド)“情熱価格”は、PBはPBでもお客さまとともに商品を作っていく「ピープルブランド」と定義し、リニューアルしました。その一環として、お客様の声を商品開発に生かす取り組みに「ダメ出し」を記入して投稿していただく特設サイトを公開しました。

「お声をください」だと、なかなかコメントしづらいと思うのですが、「よかったらダメ出ししてください」と打ち出すことで、投稿のハードルを下げてコメントしやすくしているんです。その効果なのか、毎月3000〜4000件ほど、お客様からお声を寄せていただいています。

ドン・キホーテ公式サイト「ダメ出しの殿堂」より

ー 開発担当のみなさんは「ダメ出し」をチェックされているんですね。

私は下着を担当していますが「サイズ展開が少ない」というダメ出しを受けて、サイズを増やすなど、寄せられた声を商品に反映しています。吸水ショーツへの投稿はまだ少ないですが、お客様の声を参考に、今後も改良を重ねていきたいです。

ー 吸水ショーツに寄せられた声で、何か課題に感じていることはありますか?

吸水ショーツに抵抗感を抱いている人が、想定していたよりも多かったです。例えば、店舗スタッフや周囲の女性たちに「使ってみてね」とサンプルを配布しても、不安や抵抗感が拭えず「挑戦できない」と言って、使ってもらえないことがありました。

サニタリーアイテムならではの「価格だけでは突破できない壁」があると気づきました。そういう方たちに、どうしたら最初の一歩を踏み出してもらえるのか、どうおすすめすれば響くのか。今は、それが大きな課題です。

ー 今後、フェムケアアイテムの展開などもされていきますか?

まだ構想段階ですが、フェムケアアイテムの展開も企画しています。女性向けと言っても幅広いですが、たとえば食品アイテムで「大盛り」と記載された商品って、女性だと「購入し辛い」という声があり、ニュアンスを変えて「ヤバ盛り」とリニューアルした商品があります。

些細なことですが今後は、より女性のリアルな声を反映したものづくりに注力していきたいと思っています。

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