コロナ禍のために、初のオールデジタル開催となった世界最大のエレクトロニクスショー「CES2021」。対面で人と話し、会場を歩き回ってプロダクトと出会うことは叶いませんでしたが、CES史上初めて構築された24時間アクセス可能なサイトから、参加企業の製品を自宅でじっくり眺めることができました。膨大なオンラインディレクトリから検索して見つけたフェムテック関連プロダクトをいくつかご紹介します。

スキンケアから妊娠、閉経期の健康管理までホルモンケア

Photo by Sugentech (CES2021 プレスサイトより)

『SurearlySmart』は、検査キットなどを販売する韓国の医療製品メーカーSugentech社が開発した自宅でできるスマート・ホルモンケアキット。Sugentech社は、もともとSurearlyというブランドで妊娠検査キットや排卵日予測検査キットなどを販売しています。

『SurearlySmart』は、女性ホルモンの分泌を計測することで、生理周期を管理したり、妊娠計画などに役立てられます。生理周期の乱れや肌荒れ、PMSなどに悩む人や、子宮外妊娠などのリスクをおさえながら妊娠計画をしたい人、更年期の体調の変化に悩む人など幅広い女性に向けたプロダクトとのこと。

これまで生理周期管理といえば基礎体温が基本で、毎日計測することに断念したり、正しく計れなかったりという経験がある人も多いでしょう。周期予測アプリの精度に疑問をもつ人も少なくないですが、自分が記録した生理日のみで推測するケースならば、あてにならないのもうなずけます。そんなとき、直接ホルモンを検出できるならば、より正確な予測や体調管理が可能になりそうです。

この検査キットは、Bluetooth接続できる測定デバイスにサンプルをとった尿検査スティックを取り付けると、3〜5分程度で結果が表示。連携したスマホアプリのダッシュボードにLH(黄体形成ホルモン)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、エストロゲン(E1、E2)、プロゲストロン(黄体ホルモン)のレベルが表示されます。アプリにはその日の気分なども記録できるため、ほかの周期管理アプリと組み合わせて使うのもよさそうです。

Photo by Sugentech (CES2021 プレスサイトより)

用意された2種類のキットのうちのPro版は、同社がすでに国内外へ販売している新型コロナウイルスの抗体検査ができる機能が追加される見込み。こちらのテストは指先に小さい針を刺して血液を採取する検査スティックを取り付けることでアプリ連携してテストが記録できるようになる予定とのこと(製品のリリースは2021年第二四半期の予定)。

体外受精の確率をさらにのばす精子選別チップ

最近では、妊娠に関わる問題は、女性だけではなく男性の身体も重要という認識がだんだんと広まってきていますよね。iPregは、免疫学博士である創業者ドクター・チュン氏による台湾発のスタートアップ。子どもを望むカップルの妊娠確率を上げることがミッションである同社の製品は、体外受精成功確率を下げる原因となる精子をより分け、健康な精子だけに精査する精子選別装置『Sorting Chip』。

15分でソートが完了すると、DNAにダメージのある精子の割合は74%から3.8%まで下げられたという実績があるそうです。競合製品はメニコンのミグリスやアメリカのZyMot(ザイモット)など。これらはクリニックで使われていますが、iPregは既存製品よりも質・価格ともに競争力があるとの謳い文句です。

Photo by iPreg(CES2021 プレスサイトより)

世界では人口爆発が叫ばれる一方で、日本だけでなくアメリカや中国など多くの国で不妊へのアプローチも大きな問題になっています。今後、さらに重要度があがる分野の技術です。

ひとつひとつ採取しなければならない卵子にくらべて、機械だけで精度を上げられるなんて精子と卵子の扱いはだいぶん違うなあ…と思ったのは単なる感想です(笑)。

おしゃれな搾乳機の次はバイオで作る母乳!

Photo by BIOMILQ (CES2021 プレスサイトより)

昨年のCES2020では、Elvieが出展し、誰にも気付かれずにどこでも搾乳できるブレストパンプが話題になりました。 

今回のCES2021で話題になっているのは、バイオで作る母乳『BIOMILQ』です。実際には、CESの本会場でなく期間中に並行して開かれたフードテックLive! 2021で登壇されていました。ビル・ゲイツの投資ファンドが350万ドルを出資し、昨年から大きな話題を呼んでいるこのスタートアップ。同社の共同創業者で細胞生物学者のリーラ・ストリックランド氏は、ポスドクを控えて出産、母乳だけで育てるつもりがうまく行かず苦労した経験が、起業のヒントとなったそう。目指すのは、「もう少し母乳を増やしたい」人のためのプロダクトです。

母乳の良さは長い間語られ再認識も進んでいますが、100%母乳にするには母体にも負担がかかりますし、搾乳の手間もあります。ミルクのように飲ませられたらどんなにラクか……。そこで考え出されたのがお母さんの母乳を体外で作るということ。

バイオ技術を使い、妊娠中の女性から採取した細胞をもとに「それぞれのお母さん」の人間のミルクを育てて、赤ちゃんが生まれたあとに届けるというのが『BIOMILQ』。世界初の人間のミルクを作り出すことができれば、さまざまな問題解決にも繋がるでしょう。

現在は開発・研究段階で、細胞からカゼインとラクトーズが作れるというところまで来ているそう。実際に赤ちゃんが飲めるようになるまでは、もう少し時間がかかりそうですが、実現が待ち遠しい技術です。

Photo by BIOMILQ (CES2021 プレスサイトより)

LoraDicarloは今年も健在!

2017年、CEOであるローラ・ディカーロ自身の体験をベースに起業された「セックステック」の草分け的存在であるLoraDicarlo。2019年にはCESロボティクスイノベーションアワードを受賞するも「セックストイである」との理由でいったんは賞を剥奪、CESへの出展も拒否されるという事件もありました。

それが逆に世界中の注目を集め、テック業界におけるジェンダー・イクオリティへ対する意識の低さに非難が殺到、2020年には無事にCESへカムバックしたのです。3年目となる2021年はオンライン開催のみですが、LoraDicarloは健在で、3つの新製品が紹介されていました。ブランドは好調で、現在までに7500万ドル(約75億円)を売り上げているそうです。

同社のデバイスはどれも独特な形状と、数多く特許を取得している動き(BACIは人の唇をイメージしていたり、指先の動きを模倣した振動を可能にしています)が特徴です。今回の新製品の『TILT』、『DRIFT』、『SWAY』もまた個性的な形と動きを提供。たとえば『TILT』は40度の肌触りのよい温度になるソフトシリコンに、前後2箇所のバイブレーションがついたT字のデザイン。プロダクトごとにさまざまな愉しみを提供してくれそうです。

Photo by LoraDicarlo (CES2021 プレスサイトより)

ユニークな製品の中から気に入ったものを選ぶことができ、女性が性の話題についてオープンに語れる場所が必要であるという思想のLoraDicarlo。サービスの一環としてグループセッションやプライベートセッションでのウェルネスコーチングを実施しています。現在は、Zoomでの相談ができるとのこと(残念ながら現在は英語のみ)。

さまざまな面でポジティブにセクシャル・ウェルネスに踏み込んでいく姿勢に共感し、近年は世界的女優のカーラ・デルヴィーニュが共同経営者としてプロダクト作りにも参加しているようです。なお、日本では取り扱いがありませんでしたが、ついにオンラインストアでの輸入取り扱いも一部始まったそう。 

毎日の体調に合わせたブレンドティーLify Wellness

Photo by Lify Wellness (CES2021 プレスサイトより)

フェムテック業界では美と健康をテーマにしてたプロダクトも多いですが、最近よく目にするようになってきたのがAIで「自分専用にカスタマイズされた」美容液や飲み物などが作れる家電です。

『Lify』は40秒でブレンド&抽出できる、香港発の100%天然素材のみのパーソナライズ・ハーブティマシン。さまざまなお茶をブレンドしたリフィルが用意されており、本体にセットしてスタートボタンを押すと、適切な温度と圧力でお茶を抽出します。補充用リフィルを毎月提供するサブスクも用意されています。ネスレのエスプレッソマシンの中国茶版というイメージです。

Photo by Lify Wellness (CES2021 プレスサイトより)

ポイントは、レコメンド用の個人用アプリとの連携。体調やムード、食生活などに合わせておすすめのブレンドやお茶の煎れ方を提案してくれます。抽出の際の温度や時間、お湯の量などもパーソナライズできます。Wi-Fi連携したスマホのアプリでおすすめレシピを選択すると、それに合わせたブレンドが抽出されます。

ただし、選ばれたお茶のリフィルは手動で補充する必要があり、お茶を煎れたあとは匂いが着いてしまわないようにリフィルを早めに取り出す必要があるそうです。スマホ操作の利点は、設定・清掃のボタンレス。本体のボタンは電源のみであるためデザインがスッキリしているのはいいですね。

日本でも在宅勤務が増えていて「息抜きにおいしいお茶が飲みたい」というニーズも高まっているはず。なにより伝統の中国茶ブレンドが楽しめるというのが、身体にもよさそうで気になりました。

より積極的に赤ちゃんに寝てもらう」2つのテクノロジー

新生児がいる家庭では、赤ちゃんがスヤスヤ寝てくれるかどうかが親の睡眠時間と体調にダイレクトに影響してくると思います。これまでのベビーテックといえば「赤ちゃんの様子をモニタリング」できたり、「赤ちゃんが泣いていたらお知らせ」するようなプロダクトがいくつかありました。CES2021では、より積極的に寝てもらうための機能を備えた2つのプロダクトがイノベーションアワードを受賞していました。

1つは、赤ちゃんの覚醒状態や泣き声に反応して動くスマートゆりかごの『Cradlewise』。自己学習機能があり、赤ちゃんが起きたときはモニターが関知し、カゴをゆらしたり、ホワイトノイズを再生したりして赤ちゃんを寝かしつけてくれるというもの。本当に寝てくれるかはお子さん次第かもしれませんが、利用者から感動の声も届いており、効果があれば、親の睡眠時間が確保できる夢のマシンとなるでしょう。

もう1つは日本発の赤ちゃんのスリープトレーナー『Ainenne(あいねんね)』です。赤ちゃんの就寝リズムをAIが学習し、寝かしつけや夜泣きのデータをもとに推奨の起床時間を提案、太陽を模したLEDで爽やかな目覚めをうながします。赤ちゃんが泣いている理由を「泣き声診断アルゴリズム」で分析したり、ホワイトノイズやブルーライトカットのライトで寝かしつけをサポートしたりと、親の悩みに応えるさまざまな機能が予定されています。なお、2021年春にクラウドファンディングがスタート予定とのこと。今後の予定は、公式サイトでチェックしてみてください。

Photo by Ainenne/あいねんね(CES2021 プレスサイトより)

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