「自分で付けたペンネームなんですけど、やっぱり自分を痛めつけるような名前なんだなと気づいて、そこから卒業しよう、決別をしようと思ったんです」

こう語るのはブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目され、漫画「アル中ワンダーランド」、漫画「湯遊ワンダーランド」などの著作を刊行してきた漫画家「まんきつ」さん。

おそらく「まんしゅうきつこ」という呼び名のほうが知られているかもしれないが、2019年に改名し、現在は「まんきつ」と名乗っている。

「気づいたらいつも進んでババを抜きにいってしまう人生だった」と語るまんきつさんに、これまでの活動や作品のテーマとなったアルコール中毒、そして生理について聞いた。

Photo by Kayoko Yamamoto

男の人がドン引きする名前にしたかった

話題となったブログ名が「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」。オリモノに対しては人一倍思い入れのようなものがあったのでしょうか。

まんきつ:なんでこんな名前にしたんでしょうね。たぶんパッとひらめいたんです。まんしゅうきつこだからオリモノワンダーランドだなと。

まんしゅうきつこという名前には一応理由があるんです。ずっと男の人のふりしてTwitterやってたんですよ。女の人ってわかるとDMでセクハラとかあるので。

なので数年間、男性の老人の顔アイコンで男言葉でつぶやいてたんですけど、私のことが女とわかってから、いやらしいDMが送られてくるようになったんです。

これはどうしようと、友達に「男の人って何が一番引くの?」って聞いたら、「やっぱ臭い系だね」と言われて、それでまんしゅうきつこにしたんですね。

そんな理由があったんですね。

まんきつ:動物の威嚇みたいなものですかね。以前とある番組に出たとき、玉袋筋太郎さんに「スカンクと同じだね」と言われました(笑)。そもそもそんなにたくさんの人にブログを読まれると思ってなかったのもあります。

改名はずっと考えていました。心理学の本とかもたくさん読んだんですよ。自分がなんでこんなふうに変な道ばかり選んじゃうのかって…。

友達にも、「みんなでババ抜きをしているのに、あんた自分からババを抜きにいくよね」みたいなことを言われ続けていて、その時はまったく意味がわからなかったんですけど、そういう心理学の本を読んでいるうちに、ああ、これはきっと幼少期にまでさかのぼらないと解決できないのかもしれないと思いました。

まずはまんしゅうきつこという名前から卒業しよう、決別をしようと思ったんですよね。

初めてのトークショーで酔っ払って片乳を出す

ブログを始められる前から漫画家として活動されていたんですか。

まんきつ:そうですね。その時はもう漫画のアシスタントでした。最初は大学4年の時に江川達也先生のアシスタントで『東京大学物語』の背景を描いていて、それからたまに友達の背景を手伝ったり、同僚の子がデビューしたら手伝ったりしていました。

そのあとにプラネタリウムで4年間くらい番組制作と解説員をやっていました。ギリシャ神話の絵を描いて、それを撮影してスライドを作り、セリフもしゃべって、「天頂付近に見える明るい星が琴座のベガです…」みたいな。

緊張するとお酒を飲んじゃうんですけど、暗いとしゃべれるんです(笑)。

たしかに、『アル中ワンダーランド』ではものすごい飲酒経験が描かれていますね。緊張のあまり飲んでしまい、「気づいたら次の日の朝だった」っていう。

まんきつ:大抵そうですよね。緊張するとダメなんです。

「アル中ワンダーランド」より。この突然の「気が付けば朝…」は一度や二度ではない。読んでいると「お、またか」となってくる。
©︎「アル中ワンダーランド」/扶桑社

このトークショーは、人前で顔を出してしゃべるというのが初めてでした。友達とは何時間でもしゃべれるんですけど、どうしても人前で話すのが苦手なんです。でも酔っ払っていれば、「自分じゃない誰かがしゃべってくれる」みたいなところがあるじゃないですか。

そこに頼ろうとしちゃったんですよね。

そしたら朝でした。しかも記憶にないまま、舞台で乳まで出していたことをあとで知りました。

「アル中ワンダーランド」より。次のページでは本当におっぱいが出ていた…。
©︎「アル中ワンダーランド」/扶桑社

そこから徐々にサウナにハマって、「湯遊ワンダーランド」へと続くわけですね。

イヤな出来事があると、やっぱりお酒を飲みたくなっちゃうじゃないですか。そういう時にサウナに行くとショックが少しだけ軽減することを学びまして、そこからサウナに通うようにしていますね。

かなり遠くのほうまでいろんなサウナをめぐりました。

「湯遊ワンダーランド」より。作中では都内のみならず日本中の名サウナが紹介されている。
©︎「アル中ワンダーランド」/扶桑社

サウナで整っても、生理前のイライラは

生理についてお聞きしますが、生理痛やPMSとかは重いほうですか?

まんきつ:昔は生理がすごく重たかったんですよ。で、子宮内膜症を治療したら、若干軽くなったんですけど、やっぱり毎日をもっと快適に過ごしたいので、ジムで太極拳をやったりヨガとかいろいろ試しています。

それでも生理前だけはすっごいイライラするんですよね(笑)。これはもう本当に大変ですよ。

どれだけ運動しても、何をやっても、やっぱり生理前はイライラして、例えば人にぶつかられただけで「この野郎…!」とか「おい!」とかつい言ってしまいそうなほどピリピリしてしまいます。

Photo by Kayoko Yamamoto

生理だとサウナとかも行きづらいですし、余計ストレスも。

まんきつ:そう、行きづらいですね。

サウナに行けないときはおうちでゆっくり半身浴。気分良く半身浴するためにいい香りのろうそくを焚いたりとか、防水スピーカーを持ち込んで好きな音楽を聴きながら、ゆっくりゆっくりお風呂につかります。

とにかくいかに気分良く過ごせるかを大事にしています。

本当に生理中だけはもうね…。トークイベントで「まんしゅうさん、アセンションしたとか、穏やかになったと言われますけど、生理前もそうなんですか?」という質問を目にしたんですけど、生理前はそんなことないです。どうしてもイライラしちゃいますね。

「アル中ワンダーランド」など作中に出てくる弟さんのフォローも印象的でした。もともと生理や女性特有のカラダの症状についてオープンに話されるご家庭だったんですか?

まんきつ:うちは本当にそういうのがオープンな家庭だったんですよ。これは逆に子どもに対して悪影響じゃないかってくらいのオープンさでした。

うちの父親ってセックスのことを「オマンコ」って言うんですよ。高校生にですよ?

 私、高校1年生のときにアルバイトをしたいって言ったら「バイトなんかしてオマンコを覚えたら成績が下がる。バイトなんかダメだ」って。

ええっ!?それは…。

まんきつ:おかしいでしょ!? オマンコを動詞として使うんですよ。名詞じゃないんです。

もう本当にそういうのが飛び交っている家だったので、弟にも妹にも私にも、すごく良くない影響を及ぼしていますね。

それなのに男女交際は絶対だめっていう、異常にオープンなのに、めちゃくちゃ厳しい変わった家だったんです。

Photo by Kayoko Yamamoto

いつかはマッサージ師になって人を癒やしたい

著作はアルコール、サウナときました。次はどんなチャレンジをしてみたいですか。

まんきつ:コロナ禍で急に「もっと世の中の役に立ちたい」とか、傲慢かもしれないですけど、「人を癒やしたい」と思うようになりました。それでマッサージ師になろうと思って、勉強してるんです。

例えば郵便屋さんに対して、いままでは普通に荷物を受け取っていたけど「このコロナの中で配達してくれるのってすごい大変だよな」と。

そんなことを考えていたら自分もなにかやらなきゃって思って…それがマッサージ師、整体師なんです。

なので、接骨院でアルバイトをはじめました。

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アルコール依存症体験を描いた漫画『アル中ワンダーランド』は、大幅加筆された文庫版が9月25日に発売されたばかり。

コロナ禍の外出自粛により自宅での酒量が増えたという声をよく聞く。いわゆる“オンライン飲み”では時間や場所の制限がなくお酒が飲めるため、アルコール依存症の第一歩となる恐れもある。

アルコール中毒の怖さをコミカルに描いた本作にも、その後の治療をつづった書き下ろし漫画が追加されている。

「アル中ワンダーランド」

お話を聞いた方

漫画家

まんきつ

漫画家。1975年、埼玉県生まれ。2012年に始めたブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目され、2015年には自身初の単行本『アル中ワンダーランド』(扶桑社)を刊行。2019年にペンネームを、「まんしゅうきつこ」から「まんきつ」に改名した。『ハルモヤさん』(新潮社)、『まんしゅう家の憂鬱』(集英社)、『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)など著書多数。

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